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【ステップ解説】不動産物件調査マニュアル:準備から報告書作成まで

1.物件調査の意義、なぜ専門家にとって重要なのでしょうか

物件調査は不動産の仕事、特に許認可申請に関わる私たちにとって、本当に大切なプロセスです。では、具体的に「なぜ」「どのように」重要なのか、もう少し深く掘り下げて考えてみましょう。これを理解することで、調査の一つ一つの作業の意味が見えてきて、より正確で丁寧な仕事ができるようになります。

物件調査は、単に物件の情報を集めるだけではありません。未来に起こるかもしれない問題を未然に防いだり、関わる人たち全員が安心して取引を進められるようにするための、いわば「未来を守るための準備」なのです。

未来のリスクから守る、いわば「不動産の健康診断」です

私たち人間が定期的に健康診断を受けるように、不動産も購入や開発の前にしっかり「健康診断」をしてあげる必要があります。これが物件調査の大きな役割の一つ、「リスクヘッジ」です。

隠れた問題を見つけ出すこと

一見、問題なさそうに見える土地や建物にも、専門家の目でしっかり見ないと分からない「隠れた問題」が潜んでいることがあります。

どんな問題があるの?建物が建てられない土地(再建築不可)、隣の土地にはみ出してしまっている部分(越境)、地盤が弱くて家が傾くかもしれない問題、法律で特別な制限があることを見落としていた、雨漏りやシロアリ被害など、後から気づくと大変なことになる問題がたくさんあります。
なぜ事前に見つける必要があるの?もし問題を知らずに取引を進めてしまうと、後で大きな損害が出たり、計画していた開発がストップしてしまったり、最悪の場合、裁判沙汰になることもあります。健康診断で病気を早期発見すれば、軽い治療で済むのと同じですね。
例えるなら…

中古車を買う時を想像してみてください。見た目はピカピカでも、エンジンやブレーキに問題があったら大変ですよね。だから、買う前には整備士さんに見てもらって、詳しくチェックします。不動産の物件調査もこれと同じで、見えない部分の「健康状態」をしっかり確認する作業なのです。

法律的な責任から身を守ること

不動産のプロとして、私たちは法律で定められた責任も負っています。特に「契約不適合責任」という考え方は重要です。

契約不適合責任って何?これは、売買した不動産が、契約書で約束した内容や品質、数量などと違っていた場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。(民法第562条、第563条、第564条など) 以前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。
物件調査とどう関係があるの?もし、私たちが調査不足で物件の問題点を見逃し、それを買主さんに伝えなかった場合、後で問題が発覚すると、この契約不適合責任を問われる可能性があります。買主さんから修理費用を請求されたり、契約解除を求められたりすることもあるのです。しっかり調査することは、私たち自身を守ることにも繋がります。
法律のポイント

宅地建物取引業法(宅建業法)では、不動産会社はお客さまに対して、物件に関する重要な情報を契約前に説明する義務(重要事項説明義務、宅建業法第35条)があります。物件調査は、この重要事項説明を正確に行うための大前提となるのです。

みんなが安心できる取引の土台を作ること

不動産取引には、売主さん、買主さん、そして私たち不動産会社、場合によっては行政など、たくさんの人が関わります。物件調査は、これら関係者全員が安心して、納得して取引を進めるための「土台」を作る役割も担っています。

情報をオープンにして、信頼関係を築くこと

物件の良いところだけでなく、注意が必要な点やデメリットもしっかりと調査し、正直に伝えることが大切です。

なぜ正直に伝えることが大切なの?隠し事をせず、正確な情報を伝えることで、お客さまは「この会社(担当者)は信頼できるな」と感じてくれます。それが、安心して契約を結んでもらうための第一歩です。逆に、後から「聞いてなかった!」ということが出てくると、信頼は一気に崩れてしまいます。
どんな情報を伝えるべき?調査で分かったすべての情報です。メリットはもちろん、例えば「日当たりは少し悪いけれど、駅に近いですよ」とか、「古いけれど、しっかりリフォームすれば快適に住めますよ」といった、デメリットや注意点も含めて、客観的な事実を伝えることが重要です。
例えるなら…

レストランのメニューを想像してください。料理の写真や説明、アレルギー情報などが正直に書かれていると、安心して注文できますよね。不動産も同じで、物件の情報を「メニュー」のように分かりやすく、正直に提供することで、お客さまは安心して「購入」という大きな決断ができるのです。

円滑なコミュニケーションを生み出すこと

正確な調査結果は、関係者間のスムーズな話し合い(合意形成)を助けます。

どうして話し合いがスムーズになるの?全員が同じ、正確な情報に基づいて話し合えるからです。「言った、言わない」のすれ違いや、誤解に基づく交渉を防ぐことができます。例えば、修理が必要な箇所が見つかった場合、その費用負担について、調査結果を基に具体的な話し合いができます。

許認可申請を成功させるための「設計図」の元になること

彩花さんが担当されている開発許可などの許認可申請においても、物件調査はまさに「全ての始まり」と言えるほど重要です。

申請書類の正確性を担保すること

開発許可や農地転用などの申請書類には、土地の面積、形状、現在の利用状況、接している道路の情報など、物件に関する非常に細かい情報を正確に記載する必要があります。

なぜ正確な情報が必要なの?申請書類に間違いがあると、役所から何度も修正を求められたり(補正指示)、最悪の場合、申請が受け付けてもらえなかったり(不受理)、許可が下りなかったり(不許可)することがあります。これは、時間と労力の大きなロスになります。
調査がどう役立つの?物件調査で得られた正確な情報(例えば、法務局で取得した地積測量図や、現地で確認した道路幅など)が、申請書類を作成する上での確かな根拠となります。調査がしっかりできていれば、自信を持って書類を作成し、提出できます。

計画の実現可能性を見極めること

そもそも、計画している開発(例えば、宅地造成や建物の建築)が、その土地で法的に可能なのか、物理的に問題はないのかを判断するためにも、調査は不可欠です。

どんなことを判断するの?例えば、「この土地には、法律(都市計画法や建築基準法など)でどんな制限がかかっているのか」「計画通りの建物を建てるスペースが本当にあるのか」「安全に工事を進められるか」など、計画を進める上での根本的な条件を確認します。
例えるなら…

料理を作る前に、レシピを確認し、必要な材料が揃っているか、キッチンに調理器具があるかを確認しますよね。物件調査は、不動産開発という「料理」を作る前に、その土地という「材料」がレシピ(法律や計画)通りに使えるか、開発に必要な「調理器具」(例えば、十分な広さや適切な地盤)が揃っているかを確認する作業なのです。

法律のポイント

開発許可(都市計画法第29条など)や農地転用許可(農地法第4条、第5条など)、建築確認(建築基準法第6条など)といった許認可は、それぞれ法律で定められた基準を満たさなければ許可されません。物件調査は、これらの基準を満たしているか、あるいは満たすために何が必要かを確認するための重要なステップなのです。

このように、物件調査は単なる情報収集に留まらず、リスク管理、信頼構築、そして許認可申請の成功に直結する、非常に多角的で重要な業務であることがお分かりいただけたでしょうか。次の章では、この重要な物件調査を具体的にどのように進めていくのか、5つの主要な調査フレームワークについて詳しく見ていきましょう。

2.物件調査のフレームワーク、5つの主要な調査を知りましょう

前の章では、物件調査がいかに重要かをお話ししましたね。では、具体的にどのような調査を行っていくのでしょうか。物件調査は、闇雲に調べるのではなく、いくつかの決まった側面から体系的にアプローチすることが大切です。そうすることで、調査漏れを防ぎ、効率的に物件の全体像を掴むことができます。

ここでは、不動産調査の基本となる「5つの主要な調査」について、それぞれの目的や内容を詳しく見ていきましょう。これら5つの調査は、それぞれ役割が異なりますが、互いに関連し合い、情報を補完し合うことで、物件の正確な評価に繋がります。

(1) 現地調査、自分の目で見て、肌で感じる情報収集

物件調査のスタートラインであり、最も基本となるのが「現地調査」です。文字通り、実際に物件のある場所へ足を運び、自分の五感を使って情報を集めます。

現地調査の目的、なぜわざわざ行くの?

机の上で書類や地図を見ているだけでは分からない、リアルな情報を得るためです。物件そのものの状態はもちろん、周囲の環境や雰囲気など、数値や文字では表現しきれない情報を直接感じ取ることができます。

どんなことを確認するの?建物の外観(ひび割れ、汚れ、古さなど)、敷地の状況(広さ、形、高低差、境界の様子)、接している道路の幅や交通量、日当たりの良し悪し、風通し、騒音や臭いの有無、周辺の建物や施設(学校、お店、工場など)、街並みの雰囲気などを確認します。
なぜ五感が大切なの?例えば、図面では日当たりが良く見えても、隣に高い建物が建っていて実際は暗いかもしれません。地図では静かそうでも、近くに交通量の多い道路があって騒音が気になるかもしれません。臭いなども、現地に行かなければ分かりません。こうした感覚的な情報は、住み心地や利用のしやすさに直結する大切な要素です。
例えるなら…

インターネットで洋服を買う時、写真やサイズ表記だけでは分からない着心地や素材感がありますよね。実際にお店に行って試着してみることで、本当に自分に合うかどうかが分かります。現地調査もこれと同じで、物件を「試着」してみるような感覚で、リアルな情報を確かめる作業なのです。

この現地調査で得た「生の情報」が、他の調査を進める上での重要なヒントになったり、書類情報だけでは見過ごしてしまうかもしれない問題点に気づくきっかけになったりします。

(2) 法務局調査、物件の「身分証明書」を確認する

次に重要なのが、法務局での調査です。法務局は、土地や建物の「戸籍」のような情報、つまり権利に関する公式な記録を保管している場所です。

法務局調査の目的、何が分かるの?

その不動産が「誰のものなのか(所有権)」、「借金の担保になっていないか(担保権、特に抵当権)」、「土地の正確な形や広さはどうなっているのか」といった、権利関係や物理的な状況に関する公的な情報を確認するためです。

どんな書類を調べるの?主に「登記記録(とうききろく、昔でいう登記簿謄本)」、「公図(こうず)」、「地積測量図(ちせきそくりょうず)」などを取得して内容を確認します。これらの書類には、所有者の氏名・住所、土地の地番・地目(利用区分)・地積(面積)、建物の家屋番号・種類・構造・床面積、抵当権などの権利設定状況などが記録されています。
なぜ権利関係の確認が重要なの?もし所有者が違う人だったり、多額の借金の担保に入っていたりすると、購入しても自分のものにならなかったり、後で借金の返済を迫られたりする可能性があります。権利関係をしっかり確認することは、安全な取引の大前提です。
例えるなら…

誰かとお金を貸し借りする時、相手の名前や住所、本当に信頼できる人なのかを確認しますよね。法務局調査は、不動産という高価な財産について、その「身元」や「信用情報」を公的な記録で確認するようなものです。

法律のポイント

不動産登記法に基づき、不動産の権利変動は登記することが定められています。登記には「公示力」があり、誰でも登記記録を見ることで権利関係を知ることができます。ただし、注意点として、日本の登記には「公信力」がないとされています。つまり、登記記録の内容を信じて取引しても、もしその登記が真実と異なっていた場合、必ずしも保護されるとは限らない、ということです。だからこそ、他の調査と合わせて慎重に確認する必要があるのです。

(3) 役所調査、守るべき「ルール」を確認する

不動産を利用するには、国や自治体が定めた様々な「ルール」を守る必要があります。役所調査は、その土地や建物に関する法的なルールや規制を確認する作業です。

役所調査の目的、どんなルールを調べるの?

その土地にどんな種類の建物を建てられるのか、どれくらいの大きさの建物を建てられるのか、建物を建てる際に守らなければならない特別な決まりはないか、などを調べるためです。特に、開発許可や建築確認などの申請を行う際には、これらのルールを正確に把握していることが必須となります。

どこの部署で何を調べるの?市役所や町役場の都市計画課、建築指導課、道路課、上下水道課、消防署など、関連する部署を回って情報を集めます。主に、都市計画法に基づく「用途地域(ようとちいき)」、「建ぺい率(けんぺいりつ)」、「容積率(ようせきりつ)」、建築基準法に基づく「接道義務(せつどうぎむ)」、「高さ制限」、「防火・準防火地域」などの規制内容、さらに熊本県や各市町村(例えば、熊本市や菊陽町など)が独自に定めている条例や指導要綱なども確認します。
なぜルール確認が重要なの?もしルールを知らずに計画を進めると、法律違反となり、建築許可が下りなかったり、建てた後で是正命令を受けたりする可能性があります。例えば、「家を建てようと思って土地を買ったのに、実は工場しか建てられない地域だった」なんてことになったら大変ですよね。
例えるなら…

ボードゲームで遊ぶ時、まずルールブックを読みますよね。どのマスに進めるか、どんなカードが使えるか、禁止されていることは何か、などを知らないとゲームができません。役所調査は、不動産というフィールドで「どんなゲーム(開発や建築)ができるか」のルールブックを確認する作業なのです。地域によってローカルルールがあるのも、ゲームに似ていますね。

法律のポイント

都市計画法は、街全体の土地利用を計画的に誘導するための法律です。建築基準法は、建物の安全性や衛生環境などを確保するための最低基準を定めた法律です。これらの法律や関連条例は、私たちが安全で快適な街づくりを進めるための基本的なルールとなっています。

(4) 設備調査、生活や利用に不可欠なインフラを確認する

建物を利用する上で欠かせないのが、電気、ガス、水道、下水道といったライフライン(インフラ設備)です。設備調査では、これらの状態を確認します。

設備調査の目的、何をチェックするの?

これらのインフラがきちんと整備され、問題なく機能するかどうかを確認するためです。特に古い建物の場合、設備の老朽化が進んでいる可能性があり、修理や交換に思わぬ費用がかかることもあります。

具体的にどんな点を見るの?電気が来ているか(容量は十分か)、ガスは都市ガスかプロパンガスか(配管は大丈夫か)、水道は引き込まれているか(水圧は十分か、漏水はないか)、下水は公共下水道に接続されているか、それとも浄化槽か(浄化槽の場合、維持管理はされているか、種類は何か)などを確認します。敷地内の配管ルートやメーターの位置なども把握しておきます。
なぜ設備の状態が重要なの?これらの設備が使えなかったり、不具合があったりすると、日常生活や事業活動に直接的な支障が出ます。また、修理や交換には高額な費用がかかることも少なくありません。例えば、古い水道管が破裂して漏水した場合、修理費だけでなく、水道料金も高額になる可能性があります。
例えるなら…

人間の体でいうと、血管や神経のようなものです。普段はあまり意識しませんが、これらが正常に機能しなくなると、体の調子が悪くなったり、生活に大きな支障が出たりします。設備調査は、不動産という「体」の、見えないけれど重要な部分の健康状態をチェックする作業と言えます。

(5) 照合調査、集めた情報の「答え合わせ」をする

最後のステップが「照合調査」です。これは、これまで行ってきた現地調査、法務局調査、役所調査、そして図面などの資料から得られた情報を全て並べて、「矛盾」や「食い違い」がないかを確認する、いわば「答え合わせ」の作業です。

照合調査の目的、なぜ答え合わせが必要なの?

それぞれの調査で得た情報が、必ずしも一致するとは限らないからです。例えば、登記記録上の土地面積と、実際に測量した面積が違うことがあります。図面に描かれている建物の形と、実際の建物の形が違う(増改築されているなど)こともあります。こうした情報の「ズレ」を発見し、その原因を突き止めることが目的です。

どんな情報のズレに注意するの?登記記録と現地の状況(面積、地目、境界など)、公図と現地の境界線の位置、建築図面と実際の建物の配置や形状、役所で確認した規制内容と現地の利用状況など、あらゆる情報の整合性をチェックします。
ズレが見つかったらどうするの?なぜズレが生じているのか、その原因を調査します。単なる記録ミスなのか、あるいは未登記の増築や越境など、法的な問題が隠れているのかを見極める必要があります。原因が分かれば、それに対する対応策(例えば、登記の修正、隣地所有者との協議、計画の変更など)を検討します。
例えるなら…

ジグソーパズルを完成させる時、一つ一つのピースが正しくても、隣り合うピースと形が合わなかったり、絵柄が繋がらなかったりすることがありますよね。照合調査は、集めた情報というピースを組み合わせて、物件という「絵」を完成させる作業です。ピース同士がうまくはまらない部分(情報のズレ)を見つけ出し、なぜそうなっているのかを考えるのです。

これら5つの調査は、それぞれ独立して行うだけでなく、相互に情報を突き合わせ、検証し合うことで、より深く、より正確に物件の実態を把握することができます。一つ一つの調査を丁寧に行い、最後に全体像として矛盾がないかを確認する。このプロセスを経ることで、初めて信頼性の高い調査結果が得られるのです。次の章では、このフレームワークの中でも特に重要な「現地調査」について、具体的な準備段階から詳しく解説していきます。

3.現地調査の準備、効率性と精度を高めるために

前の章で、物件調査には5つの主要なアプローチがあることを見てきましたね。その中でも、現地調査は自分の目で直接確認できる、非常に重要なプロセスです。しかし、ただ漠然と現地へ行っても、十分な情報は得られません。限られた時間の中で、効率よく、かつ正確に調査を行うためには、事前の「準備」が何よりも大切になります。

「段取り八分、仕事二分」という言葉があるように、準備をしっかり行うことで、現地での作業は驚くほどスムーズに進み、調査の質も格段に向上します。ここでは、現地調査を成功させるための「準備」について、具体的に見ていきましょう。準備は大きく分けて「持っていく道具の準備」と「事前に調べておく情報の整理」の2つです。

必須携行品リスト、調査を助ける「七つ道具」を揃えましょう

現地調査では、様々な状況を確認し、記録する必要があります。そのためには、適切な道具を事前に準備しておくことが不可欠です。まるで探検家が冒険に出る前に装備を整えるように、私たちも調査に必要な「武器」を揃えましょう。ここでは、最低限持っておきたい基本的な道具とその役割を紹介します。

調査の羅針盤、調査チェックリスト/現地調査表

これは何?調査すべき項目を一覧にしたリストや、記録用のフォーマットです。
なぜ必要なの?確認漏れを防ぎ、調査項目を体系的にチェックするためです。特に経験が浅いうちは、「何を確認すればいいんだっけ?」と現地で迷わないためのお守りになります。また、毎回同じフォーマットで記録することで、情報の整理や比較がしやすくなり、報告書作成も効率化できます。
ポイント

会社で標準の書式があればそれを利用しましょう。なければ、自分で使いやすいようにカスタマイズするのも良い方法です。調査項目は、物件の種類(土地、戸建、マンションなど)や調査目的によって調整しましょう。

方角を知る、方位磁石

これは何?どっちが北か南か、方角を示す道具です。スマートフォンのアプリでも代用できますが、専用のものがあるとより正確です。
なぜ必要なの?建物の向きや窓の位置から、日当たりの状況を把握するために重要です。また、公図などの図面と現地の向きを照合する際にも役立ちます。風向きなどを推測する手がかりにもなります。

長さを測る、計測器具(メジャー)

これは何?長さを測る巻尺です。短い距離を測るスケール(5m程度)と、長い距離を測るコンベックス(できれば30m~50m)の2種類があると便利です。
なぜ必要なの?敷地の間口(道路に接している長さ)や奥行き、建物の寸法、隣地との境界までの距離、道路の幅などを実際に測るためです。特に、接道義務(道路に2m以上接しているか)の確認や、セットバック(道路後退)が必要な場合の距離確認、越境物の寸法の計測などに必須です。図面上の寸法と実際の寸法が合っているかを確認する際にも使います。

記録の基本、筆記具・記録用具

これは何?調査結果をメモしたり、図面に書き込んだりするための道具です。
どんなものがいるの?シャープペンシル(細かい図面に書き込める0.3mm芯と、一般的な0.5mm芯があると便利)、消しゴム、ボールペン、メモ帳、そして書類を挟んで書きやすくするバインダー(クリップボード)などです。雨の日でも書けるように、耐水性のあるメモやペンを用意しておくと安心です。

見たままを記録、撮影機器

これは何?現地の状況を写真や動画で記録するカメラです。スマートフォンで十分な場合が多いですが、暗い場所や細部を撮るなら専用のカメラやライトがあると良いでしょう。
なぜ必要なの?現地の状況を客観的に記録し、後で確認したり、報告書に添付したりするためです。「百聞は一見に如かず」で、写真があれば、言葉だけでは伝わりにくい状況(例えば、壁のひび割れの程度や越境物の状況など)も正確に伝えることができます。トラブル発生時の証拠としても重要になります。

傾きをチェック、水平器

これは何?物体の水平や垂直を確認するための道具です。ホームセンターなどで手に入ります。
なぜ必要なの?建物自体や、ブロック塀、擁壁(ようへき、土砂崩れを防ぐ壁)などが傾いていないかを確認するためです。もし傾きが見られる場合、地盤沈下や構造的な欠陥、老朽化などの問題を示唆している可能性があります。

地面の様子を少しだけ、小型スコップ

これは何?ガーデニング用などの小さなスコップです。
なぜ必要なの?敷地の地面がどのような状態か、少しだけ掘って確認したい場合に使います。例えば、土の下にコンクリートガラや廃棄物が埋まっていないか、土質はどうかなどを簡易的に見るためです。ただし、本格的な地盤調査や埋設物の確認は専門業者に依頼する必要があります。勝手に深く掘るのは避けましょう。
例えるなら…

料理に例えるなら、これらの道具は包丁やまな板、計量カップ、レシピ本のようなものです。美味しい料理を作るためには、適切な調理器具とレシピ(チェックリスト)が欠かせませんよね。道具を使いこなすことで、調査という「料理」の腕前も上がっていきます。

事前確認事項、現地へ行く前に頭の中も準備しましょう

道具の準備ができたら、次は「情報」の準備です。現地へ行く前に、その物件について分かっていること、そして特に注意して確認すべき点を整理しておきます。これにより、現地での調査が格段に効率的になり、重要なポイントを見逃すリスクを減らすことができます。

調査対象を正確に把握する、対象物件の特定情報

これは何?調査する物件の基本的な情報です。
なぜ必要なの?まず、「どの物件を調査するのか」を正確に特定しなければ話になりません。似たような住所や地番も存在するため、間違いを防ぐためにも必須です。
どんな情報を整理するの?物件の所在地(住所)、地番、家屋番号(建物がある場合)、土地の面積や地目(登記記録上の情報)、建物の構造や種類、築年数などを、事前に登記情報や公図、固定資産税の評価証明書などで確認し、整理しておきます。

適用されるルールを知る、関連法規の事前把握

これは何?その物件が、どのような法律や条例の規制を受けているかを事前に調べることです。
なぜ必要なの?現地で「何に注意して見ればよいか」のポイントが明確になるからです。例えば、事前に「この土地は第一種低層住居専用地域だ」と分かっていれば、現地では周囲の建物の高さや用途がそのルールに合っているか、という視点で見ることができます。
どんな情報を調べるの?都市計画法上の用途地域、建ぺい率・容積率、防火地域・準防火地域、その他の地域地区(風致地区、景観地区など)、建築基準法上の道路種別や制限、そして熊本県や所在市町村(熊本市、菊陽町など)が定める条例や指導要綱などを、役所のウェブサイトや窓口、あるいは社内の資料などで事前に確認します。これは、後の「役所調査」の準備にも繋がります。

周辺の状況をイメージする、周辺環境の机上調査

これは何?地図や航空写真、ハザードマップなどを使って、物件の周りがどのような状況になっているかを、パソコンや資料で事前に調べることです。
なぜ必要なの?現地へ行く前に、周辺の地形(高低差、崖など)、隣接地の状況、近くにある施設(学校、工場、駅など)、そして災害リスク(川の氾濫、土砂災害など)を大まかに把握しておくことで、現地での確認ポイントを絞り込み、効率的に調査を進めることができます。
どんなツールを使うの?インターネットの地図サービス(Google マップなど)で周辺の様子やストリートビューを見たり、国土地理院が提供している地図や航空写真で地形を確認したり、各自治体が公表しているハザードマップで浸水想定区域や土砂災害警戒区域などを確認したりします。
ポイント

事前準備で集めた情報は、必ずしも最新かつ正確とは限りません。特にインターネット上の情報は参考程度と考え、最終的には現地や役所、法務局でしっかりと確認することが重要です。事前情報は、あくまで現地調査を効率化し、精度を高めるための「補助線」と考えましょう。

例えるなら…

初めての場所へ旅行に行く時、ガイドブックを読んで行きたい場所やルート、注意点などを事前に調べますよね。事前確認は、このガイドブック作りと同じです。どこへ行って何を見るか、どんな危険があるかもしれないか、などをあらかじめ知っておくことで、現地での「旅(調査)」がより充実し、安全に進められるのです。

さあ、これで道具と情報の準備は整いました。しっかり準備ができていれば、自信を持って現地調査に臨むことができます。次の章では、いよいよ現地調査の実践です。準備した道具と情報を手に、具体的にどのような点を確認していくのかを詳しく見ていきましょう。

4.現地調査の実践、確認すべき主要ポイントを掴みましょう

さあ、いよいよ現地調査の本番です。前の章で準備した道具と情報を手に、実際に物件と向き合います。現地調査は、まさに「探偵」になったような気持ちで、注意深く観察し、記録していく作業です。ここでは、具体的に「どこを」「どのように」見ていけばよいのか、主要な確認ポイントを4つのカテゴリーに分けて詳しく解説していきます。事前準備で得た情報を頭に入れながら、五感をフル活用して臨みましょう。

建物の健康診断、建物外部の状況評価

まず、建物がある場合は、その外観から「健康状態」をチェックします。建物は雨風や紫外線に常に晒されているため、時間とともに劣化していきます。そのサインを見逃さないことが重要です。将来必要になるかもしれない修繕の規模や費用を予測する手がかりにもなります。

壁の状態を見る(外壁)

何を見るの?ひび割れ(クラック)、汚れ、コケやカビの発生、塗装の剥がれ、壁材の浮きや反り、目地(壁材のつなぎ目)のゴム(シーリング材)の劣化などを確認します。
なぜ見るの?ひび割れやシーリングの劣化は、雨水が建物内部に侵入する原因となり、構造材の腐食や雨漏りを引き起こす可能性があります。特に、幅の広いひび割れや、基礎に近い部分のひび割れは要注意です。汚れやコケは美観の問題だけでなく、壁材の劣化を示していることもあります。
観察のコツ

建物の四方をぐるりと回り、様々な角度から観察しましょう。日陰になっている北側はコケが生えやすいなど、方角によって状態が異なることもあります。ひび割れの幅や長さをメジャーで測り、写真を撮って記録しておくと、後で評価しやすくなります。

屋根の状態を見る

何を見るの?屋根材(瓦、スレート、金属板など)の種類を確認し、割れ、ずれ、欠け、錆、色褪せ、コケの発生がないかを見ます。屋根のてっぺん(棟)や端の部分、雨樋(あまどい)の状態(詰まり、破損)もチェックします。
なぜ見るの?屋根は建物を雨から守る最も重要な部分です。屋根材の破損やずれは、直接雨漏りに繋がります。雨樋が詰まっていると、雨水が壁を伝って汚れや劣化の原因になります。地上から見えにくい部分ですが、双眼鏡を使ったり、可能であれば許可を得てドローンを使ったりして確認することも有効です。

建物を支える足元を見る(基礎)

何を見るの?建物の土台となるコンクリート部分(基礎)に、ひび割れがないか、種類(細いヘアクラックか、構造的に問題のある太いクラックか)や場所、幅、深さを確認します。地面との接地面の状態も見ます。
なぜ見るの?基礎は建物の荷重を支え、地震の揺れを地面に伝える重要な部分です。ここに大きなひび割れがあると、建物の耐震性や耐久性に深刻な影響を与えている可能性があります。また、基礎周りの地面が不自然に沈んでいたり、基礎との間に隙間があったりすると、地盤沈下(不同沈下)の兆候かもしれません。
不同沈下のサイン

基礎のひび割れのほか、建物が傾いている(水平器で確認)、窓やドアの開閉がスムーズでない、外壁に斜めのひび割れがあるなども、不同沈下のサインである可能性があります。

敷地内のその他の構造物を見る(付帯構造物)

何を見るの?敷地を囲むブロック塀、フェンス、門扉、擁壁(ようへき、がけ崩れなどを防ぐ壁)、カーポートなどの状態を確認します。
なぜ見るの?これらの構造物も、古くなると傾いたり、ひび割れたり、ぐらついたりして危険な状態になることがあります。特に古いブロック塀や高い擁壁は、地震などで倒壊するリスクがあり、隣接地に被害を与えてしまう可能性もあります。安全基準を満たしているかどうかの確認も必要になる場合があります。
例えるなら…

お医者さんが患者さんを診察する時、顔色を見たり、聴診器を当てたり、触診したりしますよね。建物外部の調査も同じで、目で見て(視診)、時には触って(触診)、建物の「健康状態」を診断していく作業です。小さなサインも見逃さない観察眼が大切です。

物件を取り巻く世界、周辺環境及び隣接状況の把握

物件の価値や住み心地は、建物や土地そのものだけでなく、その周りの環境によっても大きく左右されます。ここでは、物件の「外の世界」に目を向けます。

お隣さんとの関係を見る(隣接建物との離隔)

何を見るの?隣の建物がどれくらい近くに建っているか、その距離(離隔距離)を確認します。お互いの窓の位置関係なども見ておきましょう。
なぜ見るの?隣の建物が近すぎると、日当たりや風通しが悪くなったり、お互いの生活音が気になったり、プライバシーが確保しにくくなったりする可能性があります。民法では、建物を建てる際には境界線から50cm以上離さなければならないという規定もあります(民法第234条)。このルールが守られているかも確認ポイントです。
法律のポイント

民法第234条では、建物を築造するには境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないと定められています。ただし、これと異なる慣習がある地域では、その慣習に従うとされています。また、建築基準法では防火地域・準防火地域において、外壁が耐火構造であれば境界線に接して建築することも可能です(建築基準法第65条)。

周りには何がある?(周辺施設・嫌悪施設)

何を見るの?毎日の生活に便利な施設(スーパー、コンビニ、学校、病院、駅、バス停など)が近くにあるか、また、人によっては避けたいと感じる可能性のある施設(工場、ごみ処理場、騒音や臭いを出す施設、墓地、鉄塔など、いわゆる嫌悪施設や忌避施設)が近くにないかを確認します。
なぜ見るの?生活の利便性は物件の価値に大きく影響します。一方で、騒音、振動、臭気、日照阻害などを引き起こす可能性のある施設が近くにあると、快適な生活が送れなかったり、資産価値が下がったりする可能性があります。
時間帯による変化も考慮

昼間は静かでも、夜になると近くの飲食店の音が気になる、朝夕の通勤時間帯は車の交通量が多いなど、時間帯によって環境が変わることもあります。可能であれば、異なる時間帯に訪れてみることも有効です。

物件へのアクセスは?(前面道路及びアクセス)

何を見るの?物件の目の前にある道路(前面道路)の幅、交通量、歩道の有無、街灯の設置状況、舗装の状態などを確認します。最寄り駅やバス停からの実際の距離や道のり(坂道が多い、暗い道がないかなど)も歩いてみると良いでしょう。
なぜ見るの?道路の状況は、車の出し入れのしやすさ、歩行者の安全性、騒音レベルなどに影響します。駅やバス停からのアクセスは、通勤・通学の利便性を左右します。

道路との関わりを深く知る、道路状況の確認

物件と道路の関係は、単にアクセスが良いかどうかだけでなく、法律上、非常に重要な意味を持ちます。特に建物を建てたり、建て替えたりする際には、道路に関する規定をクリアしている必要があります。

どんな種類の道路?(道路種別と管理主体)

何を見るの?物件が接している道路が、国や自治体が管理する「公道」なのか、個人や法人が所有・管理する「私道」なのかを確認します。見た目だけでは判断できない場合も多いので、役所調査での確認が必須ですが、現地でも道路の幅や状態から推測する手がかりを探します。
なぜ見るの?公道に接していれば通常問題ありませんが、私道の場合は注意が必要です。その私道を通行する権利があるのか、将来、水道管やガス管の工事などで道路を掘削する必要が出た場合に、所有者の承諾が得られるのか、道路の維持管理費用は誰が負担するのか、といった問題が発生する可能性があります。私道持分(その私道の一部を所有している権利)の有無も重要になります。

法律のルールは守られている?(接道義務の充足)

何を見るの?建築基準法で定められた「接道義務」を満たしているかを確認します。具体的には、原則として「幅員(幅)が4メートル以上の道路」に「敷地が2メートル以上接している」必要があります。メジャーを使って、実際に道路の幅と、敷地が道路に接している長さを測ります。
なぜ見るの?この接道義務を満たしていない土地には、原則として建物を建てることができません(再建築不可)。これは物件の価値を大きく左右する重要なポイントです。また、接している道路の幅が4メートル未満の場合(建築基準法第42条2項道路、通称「2項道路」または「みなし道路」と呼ばれます)は、将来建物を建て替える際に、道路の中心線から2メートルまで敷地を後退させる「セットバック」が必要になります。
法律のポイント

建築基準法第43条が接道義務を定めています。同法第42条には道路の定義があり、1項で幅員4m以上の道路、2項で幅員4m未満でも特定行政庁が指定した道路(セットバックが必要)などが定められています。どの種類の道路に該当するかは、最終的には役所での確認が必要です。

セットバックとは?

道路の幅を確保するために、敷地の一部を道路とみなして後退させることです。セットバックした部分は、自分の敷地であっても建物を建てたり、塀を設けたりすることはできません。有効に使える敷地面積が減ることになります。

道路と敷地の高さ関係は?(道路との高低差)

何を見るの?敷地が道路より高いか低いか、その差はどれくらいかを確認します。高低差がある場合、土砂崩れを防ぐための擁壁(ようへき)が設置されているかも確認します。
なぜ見るの?道路より敷地が低い場合、雨水が流れ込みやすく、浸水のリスクが高まる可能性があります。また、車の出し入れのためにスロープが必要になったりします。逆に高い場合は、階段や擁壁が必要になることがあり、造成費用がかさむ要因になります。擁壁がある場合は、その安全性(ひび割れ、孕み、水抜き穴の有無など)もしっかり確認する必要があります。古い擁壁は現在の基準を満たしていない場合もあります。

生活の基盤をチェック、インフラ設備の状況確認

最後に、私たちの生活や事業活動に欠かせない電気、ガス、水道、下水道といったライフライン(インフラ設備)の状況を確認します。普段当たり前に使っているものだからこそ、その供給状況や状態をしっかり把握しておくことが大切です。

電気・ガス・上下水道は来ている?(供給状況)

何を見るの?電気が引き込まれているか(電柱からの引込線の有無、メーターの設置)、ガスの種類(都市ガスかプロパンガスか、メーターやボンベの設置)、上水道が引き込まれているか(メーターの設置)、下水道は利用可能か(公共下水道の桝があるか、浄化槽が設置されているか)を確認します。
なぜ見るの?これらのインフラが整備されていない場合、新たに引き込むための工事費用が別途必要になります。特に、都市ガスや公共下水道が未整備の地域では、その費用が高額になることもあります。電気の容量(アンペア数)や水道管の口径(太さ)が、計画している利用方法(例えば、オール電化住宅や大家族での利用)に対して十分かどうかも確認ポイントです。

メーターや桝はどこにある?(メーター・桝の位置と状態)

何を見るの?電気、ガス、水道のメーター、そして敷地内にある雨水桝(うすいます、雨水を排水する穴)や汚水桝(おすいます、生活排水を流す穴)の位置を確認し、蓋が壊れていないか、桝の中に土砂が溜まっていないか、詰まっていないかなどをチェックします。
なぜ見るの?メーターの位置は検針やメンテナンスのしやすさに関わります。桝が詰まっていたり、壊れていたりすると、排水がうまくできず、悪臭や浸水の原因になることがあります。

下水処理はどうなっている?(浄化槽)

何を見るの?公共下水道が利用できない地域で浄化槽が設置されている場合、その種類(合併処理浄化槽か単独処理浄化槽か)、大きさ(人槽)、設置場所、そして重要なのが、きちんと維持管理(定期的な清掃、保守点検、法定検査)が行われているかを確認します。管理記録が残っていれば見せてもらいましょう。放流先(処理された水がどこへ流れていくか)も確認します。
なぜ見るの?浄化槽は、法律で定期的な維持管理が義務付けられています(浄化槽法)。管理を怠ると、処理能力が低下し、悪臭や水質汚濁の原因となるだけでなく、罰則の対象にもなり得ます。単独処理浄化槽(トイレの汚水のみ処理)は現在、原則として新設が認められておらず、合併処理浄化槽(生活排水全体を処理)への転換が推奨されています。購入後に浄化槽の交換が必要になるケースもあります。
法律のポイント

浄化槽法では、浄化槽の管理者(多くの場合、所有者)に対して、保守点検、清掃、法定検査の実施を義務付けています。これらの管理記録は保管しておく必要があります。

以上が、現地調査で重点的に確認すべき主要なポイントです。もちろん、物件の種類や状況によって、さらに注意すべき点は異なります。大切なのは、事前準備で得た情報を基に、「この物件では何が問題になりそうか」という仮説を持ちながら、注意深く観察し、記録することです。現地調査で得られた情報は、次のステップである「照合調査」で、書類情報と突き合わせるための重要な材料となります。

5.照合調査、書類と現地の「答え合わせ」で矛盾を見つける

さて、現地調査で物件のリアルな姿を確認したら、次に行うのが「照合調査」です。これは、これまでの調査で集めた様々な情報、つまり法務局で取得した登記記録、役所で確認した規制内容、現地調査で見た状況、そして手元にある図面などを全て並べて比較し、「食い違い」や「矛盾」がないかを徹底的にチェックする作業です。まさに、調査全体の総仕上げとも言える重要なステップです。

なぜこの「答え合わせ」が必要なのでしょうか。それは、それぞれの情報源が示す内容が、必ずしも一致しているとは限らないからです。そして、その「ズレ」や「矛盾」こそが、物件に潜むリスクや注意すべき点を示唆していることが多いのです。この段階で問題の芽を発見し、その原因を突き止めることが、後のトラブルを未然に防ぐ鍵となります。

例えるなら…

刑事ドラマで、探偵が関係者のアリバイや証言、現場に残された証拠などを一つ一つ照らし合わせて、「あれ?ここの話が食い違うぞ?」と矛盾点を見つけ出し、事件の真相に迫っていくシーンがありますよね。照合調査は、まさにあの作業と同じです。集めた情報というピースを組み合わせて、矛盾点(リスク)がないかを探し出すのです。

登記記録と現地の照合、公的な記録と現実の一致を確認する

法務局で取得した登記記録は、物件の公的なプロフィールです。まず、このプロフィールと、現地で見た実際の姿が一致しているかを確認します。

土地や建物の「表示」は合っているか(表示に関する登記)

土地の面積(地積)登記記録に記載されている土地の面積と、現地で見た広さの感覚や、もし実測図があればその面積に大きな違いはないでしょうか。特に古い時代の測量に基づいて登記された土地では、実際の面積と登記面積が異なる(縄伸び・縄縮み)ことは珍しくありません。しかし、その差異があまりにも大きい場合は、過去に土地の一部が売買されたのに登記されていない、あるいは測量自体に誤りがあるなどの可能性も考えられます。
土地の種類(地目)登記記録上の地目(例えば「畑」や「山林」)と、実際の土地の利用状況(例えば、駐車場や資材置き場になっている)が一致しているか確認します。もし異なっている場合、地目を現況に合わせる「地目変更登記」が必要になる場合があります。特に、農地(畑や田)を宅地など他の用途で利用するには、農地法の許可(農地転用許可)が必要であり、許可なく転用されている場合は法律違反となります。
建物の情報建物がある場合、登記されている建物の種類(居宅、店舗など)、構造(木造、鉄骨造など)、床面積が、実際の建物と一致しているか確認します。現地にある建物が登記されていない(未登記建物)場合や、登記されている内容以上に増築されている(未登記増築)場合も少なくありません。これらは、融資を受ける際や将来売却する際に問題となることがあります。

持ち主や権利関係は大丈夫か(権利に関する登記)

所有者登記記録上の所有者の氏名・住所が、現在の実際の所有者(例えば、売主として交渉している相手)と一致しているか確認します。もし違っている場合、相続が発生したのに登記がされていない(相続未登記)などの理由が考えられ、所有権移転の手続きが複雑になる可能性があります。
担保権など抵当権(借金の担保)や差押え、仮差押えといった権利が登記されていないか確認します。もし設定されている場合は、取引完了までに確実に抹消できる見込みがあるか、売主や金融機関に確認する必要があります。抹消できないと、購入してもその権利を引き継いでしまうことになります。
登記の限界も知っておく

登記記録は公的な記録ですが、常に最新かつ正確な状態が反映されているとは限りません。特に表示に関する登記(面積や地目、建物の状況など)は、現況と異なるケースがしばしば見られます。また、登記には公信力(登記内容を信じた人を保護する力)がないため、登記内容を鵜呑みにせず、現地確認や他の資料との照合が不可欠です。

各種図面と現地の照合、設計図と現実のギャップを探る

次に、物件に関する様々な図面(公図、地積測量図、建物図面など)と、現地の状況を比較します。図面は物件の計画や記録を示す重要な資料ですが、これも現実とズレが生じていることがあります。

土地の形や境界は図面通りか(公図・地積測量図)

土地の形状・配置法務局で取得した公図(土地のおおまかな位置と形状を示す地図)や、もしあれば地積測量図(より正確な土地の形状・面積・境界標の位置を示す図面)と、現地の土地の形、隣接地との位置関係が一致しているかを確認します。
境界線公図や地積測量図に示されている境界線のラインと、現地にある境界標(杭など)の位置や、実際に境界として認識されている塀や生垣などのラインが一致しているかを見比べます。
公図の精度に注意

公図は、土地の位置関係を把握する上で重要な資料ですが、特に古い時代に作成されたもの(「字図」と呼ばれるものなど)は、精度が低い場合があります。縮尺が不正確だったり、現地の状況と大きく異なっていたりすることも珍しくありません。地積測量図があれば、より信頼性の高い情報が得られますが、それでも最終的には現地の状況と境界標が最も重要になります。

建物は図面通りに建っているか(建物図面)

建物の配置建物の配置図(敷地内のどこに建物が建っているかを示す図面)と、実際の建物の位置が一致しているか確認します。特に、境界線や道路からの距離が図面通り確保されているかは重要です。
建物の形状・寸法・間取り建物の各階平面図(間取り図)や立面図(外観図)と、実際の建物の形、部屋の配置、窓の位置、大きさなどが一致しているか確認します。
増改築の有無図面には存在しない部屋やバルコニーが増築されていたり、間取りが変更されていたりしないかを確認します。もし増改築が行われている場合、建築確認申請などの法的な手続きがきちんと行われているかが問題となります。手続きを経ずに増改築された部分は「違法建築」となり、是正を求められたり、将来の売却や融資に影響が出たりする可能性があります。

境界線の確認、隣地とのトラブルの種はないか

土地に関する調査で最も重要かつトラブルになりやすいのが「境界」の問題です。書類上だけでなく、現地で境界が明確になっているか、お隣さんとの間で問題がないかをしっかり確認する必要があります。

境界を示す印はあるか(境界標の存否と位置)

境界標とは?土地の境界点を示すために設置された杭(コンクリート杭、石杭、プラスチック杭など)や金属標(プレートなど)のことです。
何を確認するの?境界を示す全ての点に、境界標がきちんと設置されているかを確認します。また、設置されている境界標が、地積測量図などの図面に示された位置と一致しているか、破損したり、移動したりした形跡がないかも見ます。
なぜ重要?境界標は、土地の範囲を明確に示す物理的な証拠です。これがなくなっていたり、位置が不明確だったりすると、隣地との間で境界争いが生じる原因となります。

はみ出しはないか(越境物の有無)

越境物とは?隣の土地から自分の敷地へ、あるいは自分の敷地から隣の土地へ、建物の一部(屋根の軒、雨樋、出窓など)、塀、擁壁、樹木の枝や根などが境界線を越えてはみ出している物や部分のことです。
何を確認するの?境界線と思われるラインに沿って歩きながら、空中、地表、地中(見える範囲で)に越境物がないかを注意深く確認します。メジャーや下げ振り(糸におもりをつけたもの)を使って、はみ出しの程度を測ることもあります。
なぜ重要?越境は、隣地所有者の権利を侵害している状態であり、トラブルの大きな原因となります。越境物の撤去を求められたり、損害賠償を請求されたりする可能性もあります。また、越境がある状態だと、将来その土地を売却したり、建物を建て替えたりする際に障害となることがほとんどです。越境に関して、隣地所有者との間で「覚書」などが交わされているかどうかも確認が必要です。
境界が不明確な場合

もし境界標が見当たらない、位置がはっきりしない、あるいは隣地との間で境界についての認識が異なっているような場合は、安易に判断せず、土地家屋調査士という専門家に相談し、「境界確定測量」を行って境界を明確にする必要があるかもしれません。境界問題は非常にデリケートなので、慎重な対応が求められます。

照合調査によって、書類と現地の間に存在するかもしれない「ギャップ」を明らかにすることができました。もし、この段階で何らかの不整合や疑問点が見つかった場合は、その原因をさらに深掘りし、解決策を探る必要があります。次の章では、特に見落としがちでありながら重要な、排水設備や敷地の利用状況に関する確認ポイントについて、さらに詳しく見ていきます。

6.排水設備・敷地利用状況の確認、見えない部分と境界に注意

照合調査で書類と現地のギャップを確認したら、調査もいよいよ大詰めです。この章では、普段あまり意識しないけれど、実は生活の快適さや安全性、将来のトラブルに大きく関わる「排水設備」と「敷地の利用状況」、特に「境界」について、さらに注意深く確認していきます。これらのポイントは、見えにくかったり、専門的な知識が必要だったりするため、見落としがちですが、問題があると後々大きな影響が出ることがあります。

水の流れを追う、排水系統の確認

敷地に降った雨水や、建物から出る生活排水(汚水)が、適切に処理され、排出されているかを確認します。水の流れが滞ると、衛生面での問題や、悪臭、さらには浸水の原因にもなりかねません。

雨水はどこへ行く?(雨水排水)

何を見るの?敷地内に設置されている雨水桝(うすいます、雨水を集めて排水する設備)や、U字溝などの側溝の位置、状態(詰まり、破損、勾配は適切か)を確認します。最終的にどこへ排水されているのか(道路の側溝、水路など)も見ておきましょう。
なぜ見るの?雨水の排水能力が低いと、大雨の際に敷地内に水が溜まったり、建物に水が流れ込んだりする可能性があります。特に、敷地が道路より低い場合や、周辺がコンクリートで覆われている場合は注意が必要です。雨水桝が土砂で埋まって機能していないケースもよくあります。

生活排水は適切に処理されている?(汚水排水)

何を見るの?キッチンやお風呂、トイレなどからの生活排水(汚水)が、公共下水道に接続されているか(敷地内の汚水桝を確認)、それとも浄化槽で処理されているかを確認します。公共下水道の場合は、汚水桝から下水本管までの接続状況(詰まりや破損がないか)を、浄化槽の場合は、その種類、機能、維持管理状況、そして処理後の水の放流先(側溝や水路など)を確認します。
なぜ見るの?汚水が適切に処理・排出されないと、悪臭や衛生上の問題が発生します。公共下水道に接続されていても、接続管が詰まっていたり、勾配が悪かったりすると流れが悪くなります。浄化槽の場合は、その機能が正常に働いているか、定期的なメンテナンス(清掃、点検)が行われているかが非常に重要です。
例えるなら…

体の中の血液やリンパの流れが滞ると病気になるように、不動産においても「水」の流れは非常に重要です。雨水も汚水も、スムーズに流れて適切に処理される経路が確保されているか、いわば不動産の「循環器系」をチェックする作業です。

災害リスクを考える、水害リスクの確認

近年、毎年のように集中豪雨による水害が各地で発生しています。熊本県も例外ではありません。物件調査において、水害リスクを把握することは、お客様の生命と財産を守る上で極めて重要です。

ハザードマップを必ず確認

ハザードマップとは?自治体が作成・公表している、自然災害(洪水、土砂災害、高潮、津波など)による被害が予測される区域と、その程度を示した地図です。
何を確認するの?調査対象の物件が、洪水浸水想定区域(どのくらいの深さまで浸水する可能性があるか)や、土砂災害警戒区域・特別警戒区域(がけ崩れや土石流のリスクがある区域)に含まれていないかを確認します。熊本県や各市町村(熊本市、菊陽町など)のウェブサイトで確認できます。
なぜ重要?ハザードマップは、その土地が持つ災害リスクを客観的に知るための最も基本的な情報です。リスクの高い区域にある物件は、保険料が高くなったり、融資が受けにくくなったり、建築に制限がかかったりする可能性があります。何よりも、安全な暮らしのための重要な判断材料となります。
法律のポイント

水防法の改正により、不動産取引における重要事項説明で、ハザードマップにおける対象物件の所在地を説明することが義務化されました。これは、買主等が水害リスクを認識した上で契約判断を行えるようにするためです。

現地の痕跡や地形からもリスクを読む

どんな痕跡があるの?過去に浸水したことがある場合、建物の基礎部分や擁壁、ブロック塀などに、泥水が付着した跡(シミ)が残っていることがあります。不自然に高く盛土されている土地も、過去の浸水対策である可能性があります。
地形はどう見るの?周辺の土地よりも低い場所(窪地)、川や水路のすぐそば、崖の下や上などは、一般的に水害や土砂災害のリスクが高いと考えられます。地図や航空写真、そして現地での見え方から、地形的な特徴を把握します。
聞き込みも有効?近隣に長く住んでいる方に、過去の災害の状況や、普段の大雨時の様子などを聞いてみることも参考になります。ただし、記憶違いや主観も入る可能性があるため、あくまで参考情報として捉え、ハザードマップなどの客観的な情報と合わせて判断することが大切です。

敷地の使い方と境界、トラブルの芽を摘む

敷地の利用状況、特に隣接地との境界に関する問題は、不動産トラブルの中でも特に多く、深刻化しやすいものです。照合調査でも触れましたが、ここでは敷地利用という観点から、再度注意点を整理します。

境界ははっきりしているか(境界の明確性)

再確認のポイント境界標が全ての境界点に設置され、明確に視認できる状態か。隣接地所有者との間で境界の位置について争いがないか。もし、境界について正式な合意がなされた記録(境界確認書や筆界確認書)があれば、その内容を確認します。
なぜ明確性が重要?自分の土地の範囲が正確に分からないと、安心して建物を建てたり、塀を設置したりすることができません。将来、土地を売却する際にも、境界が確定していることは重要な条件となります。境界が曖昧なままでは、買主が見つかりにくい、あるいは価格が下がってしまう可能性があります。
境界確認書とは?

隣接する土地の所有者同士が、双方の土地の境界線について合意し、その位置を明確にした書類のことです。通常、土地家屋調査士が作成した測量図が添付されます。これがあれば、境界に関するトラブルを予防する上で非常に有効です。

はみ出しは解決できるか(越境問題の有無と影響)

再確認のポイント既存の越境物(隣地からの、または隣地への)がある場合、それがいつから、どのような経緯で発生したものか、解消することは可能なのか、解消するとした場合の費用負担はどうなるのか、などを確認します。越境に関する覚書が過去に交わされていれば、その内容(例えば、将来建て替える際には越境を解消する、など)を確認します。
なぜ影響を確認するの?越境状態が解消されないままだと、計画している建物の建築や開発に支障が出ることがあります(例えば、越境されている部分には建物が建てられないなど)。また、買主にとってもリスクとなるため、売買価格に影響したり、そもそも取引が成立しなかったりする可能性があります。解消の見込みが立たない越境は、大きな問題点として認識する必要があります。

地面の下に何か埋まっていないか(地中埋設物)

何を見るの?以前建っていた古い建物の基礎やコンクリートガラ、使われなくなった浄化槽や井戸、古い水道管、場合によっては廃棄物などが、解体・撤去されずに地中に残されている可能性があります。地表の不自然な陥没や隆起、あるいは売主や近隣住民からの情報などから、その可能性を探ります。
なぜ見るの?もし地中に大きな埋設物があると、新たに建物を建てる際に基礎工事の障害になったり、撤去するために予想外の時間と費用がかかったりする可能性があります。特に、過去に工場や特殊な施設があった土地などでは、土壌汚染の可能性も考慮に入れる必要があります。
例えるなら…

プレゼントの箱を開けたら、中身が想像と違っていたり、壊れていたりしたらがっかりしますよね。地中埋設物は、まさに土地という「箱」の中に隠された予期せぬ「中身」のようなものです。良いもの(例えば温泉とか?)ならラッキーですが、多くの場合、撤去が必要な「困ったもの」が出てくる可能性があります。見た目だけでは分からない、地面の下にも注意が必要です。

排水設備や敷地の利用状況、境界に関する確認は、地味に感じるかもしれませんが、物件の価値や安全性を左右する重要な要素です。これらの調査を通じて得られた情報は、物件評価やリスク判断の精度を高めます。さて、これまでの全ての調査結果をまとめ、最終的な評価を行うのが次の「調査報告書の作成」のステップです。どのように情報を整理し、分かりやすく伝えるかが重要になります。

7.調査報告書の作成ポイント、客観性と網羅性が命です

さて、これまでのステップで様々な角度から物件を調査し、多くの情報を集めてきました。しかし、調査は「調べて終わり」ではありません。その結果をきちんと整理し、関係者に正確に伝え、記録として残すための「調査報告書」を作成するところまでが、一連の物件調査のプロセスです。この報告書は、いわば調査活動の「集大成」であり、その後の意思決定や手続きにおいて非常に重要な役割を果たします。

質の高い調査報告書は、お客様や社内関係者からの信頼を得るための基礎となります。ここでは、分かりやすく、かつ信頼性の高い調査報告書を作成するためのポイントについて、詳しく見ていきましょう。

なぜ調査報告書が必要なのでしょうか? その役割を理解する

まず、なぜ手間をかけて報告書を作成する必要があるのか、その目的と重要性をしっかり理解しておきましょう。

調査結果を整理し、客観的に記録するため

思考プロセス調査で得た情報は多岐にわたり、断片的になりがちです。報告書を作成する過程で、これらの情報を体系的に整理し、客観的な事実として記録します。これにより、調査員自身の記憶違いや解釈の偏りを防ぎます。

関係者間で情報を共有し、共通認識を持つため

思考プロセス報告書は、調査員だけでなく、上司、同僚、営業担当者、そして最終的にはお客様(買主、売主)や行政担当者など、多くの関係者の目に触れる可能性があります。報告書を通じて正確な情報を共有することで、関係者全員が物件に対する共通の理解を持つことができ、スムーズなコミュニケーションや意思決定に繋がります。

意思決定の根拠となる資料とするため

思考プロセス不動産の購入や開発は大きな決断です。報告書に記載された客観的な情報は、その決断を下すための重要な判断材料となります。特に、リスクや注意点に関する情報は、適切な対策を講じるための根拠となります。

将来のための記録、説明責任の証拠とするため

思考プロセス「いつ、誰が、何を調査し、どのような結果だったのか」を記録として残しておくことで、後日、調査内容について問い合わせがあった場合や、万が一トラブルが発生した場合に、適切に対応するための根拠となります。不動産取引においては、説明責任が問われる場面も少なくありません。
例えるなら…

学校の実験レポートを思い出してください。実験をして結果が出ても、その過程や結果、考察をレポートにまとめなければ、評価されませんし、他の人に内容を伝えることもできません。調査報告書も同じで、調査という「実験」の結果を、他の人が理解し、評価し、活用できるようにまとめる「レポート」なのです。

調査報告書の構成要素、何を書けばいいのでしょうか?

では、具体的に報告書にはどのような内容を盛り込むべきでしょうか。一般的に、以下の要素を含めることが求められます。

物件の基本情報(物件概要)

内容調査対象となった物件を特定するための基本情報です。所在地、地番、家屋番号、土地の面積・地目、建物の種類・構造・床面積・築年数などを正確に記載します。
ポイント誰が読んでも、どの物件についての報告書なのかが一目でわかるように、正確かつ簡潔に記載します。

調査した内容とその結果(調査項目と結果)

内容実施した調査(現地調査、法務局調査、役所調査、設備調査、照合調査、排水・敷地利用状況の確認など)ごとに、確認した項目と、その結果(確認できた事実)を具体的に記載します。
ポイント調査チェックリストなどを活用し、調査した項目を網羅的に記載します。「問題なし」と判断した場合でも、「〇〇について確認した結果、特段の問題は認められなかった」のように、確認した事実を記載することが重要です。

リスクや注意点(確認されたリスク・特記事項)

内容調査の結果、判明した法令上の制限(再建築不可、セットバック要など)、物理的な問題点(建物の傾き、雨漏りの可能性、擁壁のひび割れなど)、権利関係の問題(未登記、抵当権ありなど)、境界や越境の問題などを、具体的に分かりやすく記載します。
ポイント発見されたリスクや問題点については、その内容だけでなく、考えられる影響や、必要となる可能性のある対策(修繕、交渉、追加調査など)についても触れておくと、より有用な情報となります。良い点だけでなく、ネガティブな情報も客観的に記載することが信頼性の鍵です。

根拠となる資料(添付資料)

内容報告書の内容を裏付けるための資料を添付します。公図、地積測量図、登記記録(謄本)、建物図面、現地で撮影した写真、役所で取得した証明書や確認内容のメモなどが考えられます。
ポイント添付資料があることで、報告書の記載内容の根拠が明確になり、信頼性が格段に向上します。写真には撮影日時や場所、何を示しているかの簡単な説明を添えると、より分かりやすくなります。

作成上の留意点、分かりやすく信頼される報告書にするために

報告書の内容が良くても、書き方が分かりにくかったり、信頼性に欠けたりしては意味がありません。以下の点に注意して作成しましょう。

客観的な事実を記載する

ポイント「~だと思う」「たぶん~だろう」「~のような気がする」といった主観的な表現や曖昧な推測は避け、「~が確認された」「~の状態であった」「〇〇(資料名)によれば~」のように、確認できた客観的な事実に基づいて記述します。自分の意見や感想は、事実と明確に区別して記述するか、基本的には含めません。

具体的かつ定量的に記述する

ポイント抽象的な表現ではなく、具体的な情報(場所、数値、程度など)を盛り込みます。
悪い例と良い例
  • ×「壁にひび割れがあった。」
  • 〇「建物南側、1階リビングの窓の右下に、幅約0.5mm、長さ約30cmの斜め方向のクラック(ひび割れ)が確認された。」
  • ×「道路が狭い。」
  • 〇「前面道路の幅員を実測したところ、約3.5mであった。(建築基準法第42条2項道路の可能性あり、要役所確認)」

情報の根拠を明示する

ポイント記載した情報が、どの調査(現地確認、法務局、〇〇市役所△△課など)で、どの資料(登記記録、公図、ハザードマップなど)に基づいて得られたものなのかを明確に示します。これにより、読み手は情報の出所を確認でき、報告書の信頼性が高まります。
書き方の例「登記記録(〇〇法務局、令和〇年〇月〇日取得)によれば、本地積は〇〇㎡である。」「熊本市都市計画課にて確認したところ、本物件は第一種住居地域に指定されている。」

写真や図面を有効に活用する

ポイント文章だけでは伝わりにくい現地の状況や問題箇所は、積極的に写真や図面を活用しましょう。写真には撮影箇所や何を示しているかの説明(キャプション)を付け、図面には問題箇所をマーキングするなど、視覚的に分かりやすく伝える工夫が有効です。

読みやすい構成と表現を心がける

ポイント専門用語を多用しすぎず、必要な場合は簡単な説明を加えます。情報を整理するために、箇条書きや表を効果的に使いましょう。報告書の構成も、結論や要点を先に示すなど、読み手が内容を理解しやすいように工夫します。誤字脱字がないか、提出前には必ず見直しを行いましょう。
重要事項説明書との違い

調査報告書と似た書類に「重要事項説明書」がありますが、役割が異なります。調査報告書は、調査で判明した客観的な事実を網羅的に記録・報告する内部資料(または依頼主への報告資料)としての性格が強いのに対し、重要事項説明書は、宅地建物取引業法に基づき、契約前に買主等に対して法的に説明することが義務付けられた事項を記載する書類です。調査報告書は、この重要事項説明書を正確に作成するための基礎資料となります。

調査報告書の作成は、物件調査の最終アウトプットであり、プロフェッショナルとしての力量が問われる部分でもあります。今回解説したポイントを押さえ、常に客観性と網羅性を意識し、分かりやすい報告書作成を目指しましょう。さて、最後の章では、これまでの調査内容を踏まえつつ、数値やデータだけでは測れない「定性的な情報」の重要性について触れたいと思います。

8.定性的情報の重要性、現地で感じる「空気感」もプロの視点

さて、これまで物件調査の様々なステップを経て、登記情報や法令、建物の状態など、多くの「客観的なデータ」を集め、整理し、報告書にまとめる方法を見てきました。しかし、不動産の価値や魅力、そして何より人がそこで「暮らしたい」「利用したい」と感じるかどうかは、こうした数値やデータだけでは測りきれない部分も大きいのです。

この章では、調査の最後のスパイスとも言える「定性的情報」、つまり数値化は難しいけれど、現地で実際に感じ取る「雰囲気」や「空気感」の重要性についてお話しします。プロフェッショナルとして、データに基づいた客観的な判断はもちろん重要ですが、同時に、現場でしか得られない感覚的な情報にもアンテナを張り、それを評価に活かす視点も大切になります。

例えるなら…

レストランを選ぶとき、料理の評価サイトの点数(客観データ)も参考にしますが、お店の外観や内装の雰囲気、店員さんの活気、漂ってくる美味しそうな匂い(定性的情報)なども、お店に入るかどうかの大きな決め手になりますよね。不動産も同じで、スペックだけでは分からない「居心地の良さ」や「街の魅力」といった定性的な要素が、その価値を大きく左右することがあるのです。

どんな「空気感」に注目するべきか?

では、具体的にどのような定性的情報に注意を向けるべきでしょうか。大きく分けて3つの側面があります。

五感で捉える環境要因

現地調査の基本ですが、ここでは特に数値化しにくい感覚的な要素に焦点を当てます。

騒音・振動車の走行音、電車の音、近隣工場の稼働音、学校のチャイムや子供たちの声など、どのような音が、どの程度の頻度・大きさで聞こえるか。また、大型トラックが通る際の振動などはないか。時間帯によって変化するため、可能であれば異なる時間帯での確認が望ましいです。
臭気近くに飲食店、工場、畜産施設、ゴミ処理場、あるいは排水溝など、特有の臭いの発生源はないか。風向きによっても感じ方が変わるため注意が必要です。
日照・風通し図面や方位だけでは分からない、実際の明るさや開放感、風の流れを体感します。季節や時間帯による変化も想像してみましょう。例えば、夏は涼しい風が抜けるか、冬は暖かい日差しが期待できるか、などです。
どう記録し、活かすか?

これらの感覚的な情報は、調査報告書に「〇〇時頃、前面道路を大型トラックが通過する際に若干の振動を感じた」「隣接する飲食店の排気と思われる臭いが風向きによって感じられた」のように、客観的な事実として記録します。その上で、「(個人的な印象として)特に気になるレベルではなかった」「人によっては気になる可能性がある」といった主観的な評価を付記することも有効ですが、あくまで客観的事実と区別して記載しましょう。お客様に説明する際には、これらの情報を正直に伝え、現地で一緒に体感してもらうことが重要です。感じ方は人それぞれ異なるためです。

街の雰囲気や地域性を感じる周辺状況

物件単体だけでなく、それが存在する「街」全体の雰囲気や、地域ならではの特性も重要な定性的情報です。

近隣の様子隣近所の家々の手入れは行き届いているか、庭木はきれいに剪定されているか、ゴミ出しのルールは守られているかなど、地域の管理状態や住民の意識が垣間見えることがあります。空き家が多い、落書きがあるなど、マイナスな側面にも目を向けます。
街並み・景観道が広く歩きやすいか、緑が多いか、電線が地中化されているか、統一感のある美しい街並みかなど、街全体の印象を確認します。眺望が良い、歴史的な建造物が近いなどもプラス要素です。
地域コミュニティ公園で遊ぶ子供たちの姿が多いか、高齢者が散歩している姿をよく見かけるか、地域のお祭りなどがありそうかなど、その地域の住民層やコミュニティ活動の様子を観察します。静かな住宅地を好む人もいれば、活気のある地域を好む人もいます。
「歩く」ことの重要性

車で通り過ぎるだけでは分からない街の魅力や課題は、実際に自分の足で歩いてみることで見えてきます。少し時間をかけて周辺を散策し、地域全体の空気感を感じ取ることが大切です。

経験から生まれる直感的所見

これは、調査経験を積むことで養われる感覚的な部分です。

「何か変だぞ?」という感覚データや書類上は問題がないように見えても、「何となく嫌な感じがする」「どこか不自然だ」といった直感的な違和感を覚えることがあります。これは、過去の経験や知識が無意識のうちに危険信号を発しているのかもしれません。
どう向き合うか?この「直感」を安易に無視しないことが大切です。なぜそう感じるのか、その違和感の正体は何なのかを自分なりに考え、追加で確認すべき点はないか、他の人に意見を聞いてみるなど、深掘りするきっかけとします。例えば、「この擁壁、見た目は綺麗だけど、水抜き穴が少ない気がする…大丈夫かな?」と感じたら、擁壁の専門家に見てもらうことを検討するなどです。報告書にも、客観的事実とは区別した上で、「経験上、〇〇の点がやや気になった」とメモを残しておくことも有効です。
例えるなら…

ベテランの料理人が、レシピ通りに作っても、その日の気温や湿度、素材の状態を感じ取って、火加減や調味料を微妙に調整することがありますよね。不動産調査における直感もこれに似ています。データやマニュアルだけでなく、現場の状況や経験から、より最適な判断や、潜在的なリスクへの気づきを得ることがあるのです。

このように、定性的な情報は、物件の評価に深みを与え、より顧客のニーズに合った提案や、リスクに対する感度を高める上で重要な役割を果たします。客観的なデータ分析能力と合わせて、現場の空気感を読み取る感覚も磨いていくことが、プロフェッショナルへの道と言えるでしょう。

まとめ、物件調査能力は専門家の礎です

ここまで、不動産物件調査の意義から始まり、具体的な調査のフレームワーク、準備、現地調査の実践、照合調査、排水・敷地利用状況の確認、報告書の作成、そして定性的な情報の重要性まで、一連の流れを見てきました。

物件調査は、不動産のプロフェッショナルとして欠かせない基本的なスキルであり、その精度が業務の質、ひいてはお客様からの信頼に直結します。振り返ってみましょう。

調査の意義リスクを未然に防ぎ、安全で透明な取引を実現し、許認可申請の確かな土台を築くために不可欠です。
5つの調査フレームワーク現地調査、法務局調査、役所調査、設備調査、照合調査という多角的なアプローチで全体像を把握します。
準備の重要性効率的で精度の高い調査のためには、道具と情報の事前準備が鍵となります。
現地調査の実践建物外部、周辺環境、道路、インフラなど、五感を使い、観察眼を光らせてチェックします。
照合調査集めた情報間の矛盾や不整合を見つけ出し、潜在的なリスクを発見します。
排水・敷地・境界見落としがちですが、生活への影響やトラブルの種となりやすいポイントも確実に確認します。
調査報告書調査結果を客観的かつ網羅的に記録し、関係者と情報を共有するための重要なツールです。
定性的情報データだけでは測れない現地の空気感や感覚的な情報も、プロの視点として大切にします。

物件調査は、一度や二度経験しただけですぐに完璧にこなせるようになるものではありません。一つ一つの案件に丁寧に向き合い、様々なケースを経験する中で、知識やスキルは着実に向上していきます。大切なのは、常に「なぜ?」という疑問を持ち、分からないこと、不安なことを決してそのままにしない姿勢です。

難解な法律や複雑な手続きに戸惑うこともあるでしょう。そんな時は、一人で抱え込まず、先輩や上司に相談したり、必要に応じて土地家屋調査士や弁護士といった専門家の助けを借りることも重要です。

正確で丁寧な物件調査を積み重ねていくことが、お客様に「安心して任せられる」と言ってもらえる担当者への、そして将来の不動産・開発申請の専門家への確かな一歩となるはずです。今回の内容が、日々の実務を進める上での一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

NOTE

業務ノート

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