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地震に強い建物を見抜く!耐震知識の重要ポイント総まとめ

はじめに。地震に強い建物、見分けられますか。

私たちの暮らす日本では、いつ、どこで大きな揺れに見舞われるか予測が難しいものです。特に、熊本では過去の大きな地震の経験から、建物の安全性に対する関心が一層高まっているのではないでしょうか。

不動産のお仕事をしていると、お客様から「このお家、地震がきても大丈夫かしら。」「新しい土地に建物を建てたいけれど、どんなことに気を付けたらいいの。」といったご質問をいただく機会も少なくないと思います。そんな時、自信を持って、そして分かりやすくお答えできると、お客様からの信頼もグッと深まりますよね。

この一連の記事では、地震に強い建物、あるいは少し注意が必要かもしれない建物をどのように見分けていけばよいのか、そのポイントを一つひとつ丁寧に、そして分かりやすく解き明かしていきます。まるで、探偵が手がかりを集めて謎を解くように、一緒に建物の「強さ」の秘密に迫っていきましょう。この知識は、日々の業務できっとお役に立つはずです。

なぜ、建物の「強さ」を知ることが大切なのでしょうか。

「建物の強さ、つまり耐震性(たいしんせい)って、建築士さんの専門分野じゃないの。」と思われるかもしれません。確かに、詳細な計算や専門的な判断は専門家の領域です。しかし、私たち不動産に携わる者も、基本的な知識を持っておくことは非常に重要です。

お客様への的確なアドバイスのために

お客様が安心して住まいを選んだり、大切な資産である不動産を売買したりするためには、建物の安全性に関する情報が欠かせません。例えば、こんな場面を想像してみてください。

例えばこんな時
中古住宅をご案内する時「このお家は〇〇年に建てられていて、当時の基準ではこうでした。もしご心配でしたら、専門家による耐震診断という方法もありますよ。」と、具体的な情報提供や次のステップを提案できます。
土地をご紹介し、新築のご相談を受けた時「この地域は地盤が比較的しっかりしていますが、新しいお家を建てる際には、今の法律で定められた耐震基準をクリアすることはもちろん、さらに安心を高めるための工法もありますよ。」と、お客様の不安に寄り添ったアドバイスができます。

不動産取引のプロとして

建物の状態を正しく理解し、お客様に伝えることは、私たち不動産取引の専門家としての責任の一つと言えるでしょう。特に、開発許可申請などの業務では、新しく造成する土地にどのような建物が建てられるのか、その安全性を確保するための法的な規制はどうなっているのか、といった視点も求められます。間接的ではありますが、建物の安全性に関する知識は、このような業務の背景理解にも繋がってきます。

ポイント整理
知っておくべき理由具体的なアクション
お客様に安心を提供するため物件の建築年や構造の特徴から、基本的な安全性の目安を伝える。
専門家として信頼されるため耐震診断などの専門的な対応が必要な場合、適切な情報を提供する。
不動産の価値を適切に把握するため建物の耐震性が物件の価値に影響する場合があることを理解する。

法律も私たちの味方です。「建築基準法」というルール

日本には、建物を建てる時のルールを定めた「建築基準法(けんちくきじゅんほう)」という大切な法律があります。この法律は、過去に起きた大きな地震の教訓を踏まえて、何度も改正されてきました。目的はただ一つ、地震が起きても、建物の中にいる人の命を守り、そして建物が簡単に壊れてしまわないようにするためです。

この法律で定められている耐震に関する基準、これを「耐震基準(たいしんきじゅん)」と呼びます。この耐震基準をクリアしていないと、そもそも建物を建てることができないのです。運動会の前に体力測定をして、一定の基準をクリアしないと競技に出られない、というのに少し似ているかもしれませんね。建物も、地震という大きな力に立ち向かうために、しっかりとした「体力」が求められるのです。

この後の章では、この「建築基準法」がどのように変わってきたのか、そして、その変わり目が建物の強さにどう影響しているのか、という点も詳しく見ていきます。この知識は、古い建物を見る際の重要な判断材料になりますよ。

さあ、準備はよろしいでしょうか。次のセクションからは、具体的にどんなポイントに注目すれば、建物の「強さ」のヒントを見つけられるのか、一緒に学んでいきましょう。

一番大事なポイント。「いつ建てられた建物か」という年号の魔法。

前の章では、建物の「強さ」、つまり耐震性を知ることが、私たち不動産に携わる者にとってなぜ大切なのか、そして、その背景には「建築基準法」という国のルールがあることをお話ししましたね。今回は、その中でも特に注目していただきたい、まるで魔法の呪文のような「ある年号」について、じっくりと掘り下げていきましょう。

この「年号」を知っているだけで、建物の耐震性に対するおおよその見当がつけられるようになる、と言っても過言ではありません。それは、不動産取引の現場で、お客様に的確な情報をお伝えする上で、強力な武器になるはずです。

その魔法の年号とは。「1981年(昭和56年)」です。

さあ、ここでクイズです。もし、あなたが建物の強さを調べる探偵だとしたら、まず何を手がかりにしますか。実は、最も重要な手がかりの一つが、その建物が「いつ建てられたか」ということ、つまり「建築された年」なのです。

そして、その中でも特に重要な境界線となるのが、1981年(昭和56年)6月1日です。この日を境にして、建築基準法における耐震の考え方が大きく変わりました。この日以降に建築確認(けんちくかくにん、建物を建てる前に設計図などが法律に合っているかチェックを受けること)を受けた建物は、「新耐震基準(しんたいしんきじゅん)」と呼ばれる、より厳しい基準で建てられています。反対に、それ以前の建物は「旧耐震基準(きゅうたいしんきじゅん)」で建てられているということになります。

思考のプロセス。なぜ「1981年」がそんなに大切なの。

この「1981年」という年が、なぜこれほどまでに重視されるのでしょうか。それは、日本の耐震設計の歴史において、非常に大きな転換点だったからです。

大きなきっかけの一つは、1978年に発生した「宮城県沖地震」です。この地震では、多くの建物、特に比較的新しいと思われていた鉄筋コンクリート造の建物などにも大きな被害が出ました。この経験から、「これまでの耐震基準では、大地震に対して十分ではないのではないか」という反省が生まれ、より安全な建物を目指すための基準見直しが急がれたのです。

そして、数々の検証と議論を経て、1981年6月1日に施行されたのが「新耐震基準」なのです。これは、ただ単に基準を厳しくしたというだけでなく、地震に対する考え方そのものを大きく変えた、画期的な改正でした。

新耐震基準と旧耐震基準。何がどう違うのでしょうか。

では、この「新耐震基準」と「旧耐震基準」、具体的に何が違うのでしょうか。一番大きな違いは、建物が耐えるべき地震の揺れの大きさと、その時の建物の状態についての考え方です。

耐震基準の考え方の違い。
基準考え方のポイント目標とする建物の状態
旧耐震基準
(1981年5月31日までの建築確認)
震度5程度の揺れ(中規模な地震)に対して、建物が大きく壊れないこと。建物が損傷はしても、倒壊はしない(人命保護というよりは、建物の存続が主眼に置かれていた側面も)。大地震時の倒壊については、明確な規定はありませんでした。
新耐震基準
(1981年6月1日以降の建築確認)
1. 震度5強程度の揺れ(中規模な地震)に対してほとんど損傷しないこと(建物が無傷に近い状態)。2. 震度6強から7程度に達する可能性のある揺れ(大規模な地震)に対して倒壊・崩壊しないこと(建物に損傷は受けても、中にいる人の命が守られること)。「人命の保護」が最大の目的とされています。大きな揺れで建物が傾いたり、一部壊れたりすることはあっても、完全に潰れてしまうことは避けよう、という考え方です。

具体的にどんな設計が変わったの。

新耐震基準では、このような目標を達成するために、建物の設計方法も大きく見直されました。

  • より詳細な計算が必要に。
    建物が地震の揺れに対してどれだけ耐えられるか(これを「保有水平耐力(ほゆうすいへいたいりょく)」と言います)を、より詳しく計算することが求められるようになりました。特に、大きな建物や複雑な形の建物では、この計算が非常に重要になります。
  • 「粘り強さ」も評価。
    単に硬くて丈夫なだけでなく、地震のエネルギーをうまく吸収して、しなやかに揺れることで倒壊を防ぐ「靭性(じんせい)」、つまり粘り強さも重視されるようになりました。

(根拠法令。建築基準法(昭和25年法律第201号)及び同施行令(昭和25年政令第338号)。特に昭和56年の改正内容、建設省告示第1793号(当時)などが新耐震基準の具体的な内容を定めています。)

「1981年以前」だからといって、すぐに危険というわけではありません。

ここで一つ注意していただきたいのは、「1981年5月31日以前に建てられた建物(旧耐震基準の建物)が、全て危険だ」というわけではない、ということです。旧耐震基準で建てられた建物の中にも、しっかりと丁寧に設計・施工され、現在の基準に近い耐震性を持っているものもたくさんあります。また、その後のリフォームで耐震補強工事が行われている場合もあります。

しかし、「新耐震基準を満たしている可能性が高い」という安心感がある1981年6月1日以降の建物に比べて、「もしかしたら、今の基準で見ると少し強さが足りないかもしれない」という視点を持って、より注意深く状態を確認する必要がある、というのが専門家の一般的な考え方です。この「1981年」という年は、いわば建物の健康状態を見る上での「最初のふるい分け」のラインと考えていただくと良いでしょう。

不動産の調査では、登記簿謄本(全部事項証明書)の「原因及びその日付(登記の日付)」欄や、もし残っていれば建築確認済証(けんちくかくにんずみしょう)や検査済証(けんさずみしょう)で、建物の正確な建築年月日を確認することが第一歩です。この情報を元に、お客様に適切なアドバイスができるようになります。

さて、この「1981年」という大きな分かれ目についてご理解いただけたでしょうか。この知識をベースにして、次の章からは、さらに具体的に、どんな特徴を持つ建物が地震に対して注意が必要なのか、その見分け方のヒントを詳しく見ていくことにしましょう。

耐震性が低い建物かも。見分けるための大事なヒント。

前の章では、建物の「誕生日」とも言える建築された年、特に「1981年(昭和56年)」という年が、耐震性を考える上で非常に大きな目印になることをお話ししました。あの魔法の年号ですね。その年を境に、建物の地震に対する「体力測定の基準」が変わった、というイメージでした。

さて、今回はその「誕生日」に加えて、建物の「個性」とも言える特徴から、耐震性に関するヒントを探っていく方法をご紹介します。建物がどんな材料でできているのか、どんな形をしているのか、といった点に注目することで、専門家でなくても「おや、ここは少し気をつけて見ておいた方が良いかもしれないな」という気づきを得ることができるのです。もちろん、これだけで全てが判断できるわけではありませんが、大切な第一歩になりますよ。

ヒントその1。建物の「骨組み」は何でできているか知っていますか(構造材料について)。

人間にも骨があるように、建物にも「構造」という骨組みがあります。この骨組みが何でできているかによって、地震の揺れに対する反応の仕方が変わってきます。主な建物の骨組みの種類と、それぞれの特徴を簡単に見てみましょう。

主な建物の骨組み(構造種別)と特徴。
骨組みの種類簡単な説明地震に対する一般的なイメージ注意しておきたい点
木造(もくぞう)柱や梁(はり)などの主要な部分が木材でできている建物です。日本の戸建て住宅で最も一般的ですね。木は軽くて、ある程度のしなやかさ(揺れを吸収する性質)を持っています。まるで柳の木のように、揺れを受け流すイメージです。適切な設計と丁寧な施工が非常に大切です。湿気による腐食やシロアリの被害で強度が落ちてしまうこともあります。また、壁の量が少ないと揺れやすくなります。
鉄骨造(てっこつぞう)
S造(エスぞう)とも言います
柱や梁が鉄骨でできている建物です。工場や倉庫、店舗、アパートなどでよく見られます。鉄は粘り強い材料なので、大きな力が加わっても急にポキッと折れたりせず、変形することでエネルギーを吸収します。鉄棒がぐにゃっと曲がるイメージに近いです。木造に比べて重くなるので、しっかりとした地盤が必要です。また、鉄は火に弱いので、耐火被覆(たいかひふく、火から守るための覆い)が重要になります。接合部分の施工も大切です。
鉄筋コンクリート造(てっきんコンクリートぞう)
RC造(アールシーぞう)とも言います
鉄筋(てっきん)という鉄の棒を組んで型枠に入れ、そこにコンクリートを流し込んで作る建物です。マンションやビルなど、比較的大きな建物に多いです。コンクリートは圧縮される力に強く、鉄筋は引っ張られる力に強いので、両方の良いところを活かした頑丈な構造です。岩のようにがっしりとしたイメージです。重いため、地震の力も大きくなります。設計や施工が不適切だと、硬いが故に脆性的な破壊(ぜいせいてきなはかい、粘りなく急に壊れること)を起こす可能性もゼロではありません。コンクリートのひび割れなども注意が必要です。
鉄骨鉄筋コンクリート造(てっこつてっきんコンクリートぞう)
SRC造(エスアールシーぞう)とも言います
鉄骨の周りに鉄筋を配置し、コンクリートを打ち込んだ、さらに強固な構造です。大規模な高層ビルなどで採用されます。鉄骨の粘り強さと、鉄筋コンクリートの剛性(ごうせい、変形しにくい性質)を併せ持っています。非常に強靭なイメージです。構造が複雑でコストも高めです。RC造と同様に、重量があるため地震力も大きくなります。
思考のプロセス。「材料だけで強さは決まらない」ということ。

ここまで様々な材料を見てきましたが、「じゃあ、どの材料が一番地震に強いの。」と疑問に思うかもしれませんね。実は、専門家は「この材料だから絶対に安全」とか「この材料だから危険」というようには考えません。

大切なのは、それぞれの材料が持つ特性、例えば軽さ、強さ、粘り強さなどを十分に理解した上で、その建物が建つ場所の地盤の状況や、建物の形、大きさなどに合わせて、最も適した設計がなされているか、そして、その設計通りに丁寧に工事が行われているか、ということなのです。

例えば、軽い木造の家でも、壁の量が少なかったり、接合部分が弱かったりすれば、地震で大きな被害を受ける可能性があります。逆に、重たい鉄筋コンクリート造の建物でも、しっかりと計算され、適切に鉄筋が配置されていれば、大きな地震にも耐えることができます。

ですから、材料の種類はあくまで一つの「とっかかり」として捉え、それだけで安心したり、不安になったりしすぎないようにしましょう。

ヒントその2。建物の「見た目」や「間取り図」から何を読み解けるか(形状や設計について)。

建物の強さを考える上で、その「形」も非常に重要な要素です。人間も、姿勢が良いと安定して立てるように、建物もバランスの良い形をしている方が、地震の力に対して安定しやすいのです。ここでは、主に建物の平面的な形(上から見た形)と、立面的な形(横から見た形)、そして壁の配置などに注目してみましょう。

平面の形。できるだけシンプルが理想です。

建物を真上から見たときの形を「平面形状(へいめんけいじょう)」と言います。この形は、できるだけ四角形に近い、シンプルなものが地震に対して有利とされています。

例えば、お豆腐を揺らしてみましょう。

四角いお豆腐と、例えば星形のような複雑な形に切ったお豆腐を、同じようにお皿の上で揺らしてみると、どちらが崩れやすいでしょうか。きっと、複雑な形の方が、角の部分や細い部分に応力が集中して、先にひびが入ったり、崩れたりしやすいと想像できるのではないでしょうか。

建物もこれと似ていて、L字型、T字型、コの字型、あるいは凹凸(でこぼこ)が多い複雑な平面形状の建物は、地震の揺れによって建物全体がねじれたり、特定の角の部分に力が集中したりしやすいため、構造的な弱点が生まれやすいと考えられています。特に、1981年以前の旧耐震基準で建てられた建物で、複雑な形をしている場合は、少し注意が必要かもしれません。

地震に強い傾向がある形注意が必要な形(の一例)
長方形や正方形に近い、シンプルな形L字型、コの字型、T字型など、凹凸の多い形

(注。複雑な形状の建物でも、エキスパンションジョイントという特殊な継ぎ目で建物を区切るなど、適切な設計がされていれば問題ありません。)

建物の高さ方向の形(立面形状)と壁のバランスもチェック。

次に、建物を横から見たときの形や、壁の配置についてです。ここでも「バランス」がキーワードになります。

注意したい建物の特徴(立面や壁の配置)。
注目するポイントどんな状態だと注意が必要か(一例)なぜ注意が必要か
1階部分の壁の少なさ(ピロティ形式など)1階が駐車場や店舗になっていて、柱だけで支えられ、壁が極端に少ない。上の階に比べて1階が弱いため、地震の力が集中して押しつぶされるように壊れることがあります。まるで、重たい頭を細い首で支えているような状態です。特に旧耐震の建物では、阪神・淡路大震災でも多くの被害が出ました。
壁の配置の偏り建物の特定の方角にばかり壁が多く、反対側は窓だらけで壁がほとんどない。地震の揺れは、どの方向から来るか分かりません。壁が少ない方向は、揺れに対して踏ん張る力が弱くなります。建物全体がねじれるような動きをしやすくなります。
大きな吹き抜けや広い無柱空間体育館のように柱のないだだっ広い空間や、複数階にまたがる大きな吹き抜けがある。開放感があり魅力的ですが、地震の水平な力に抵抗する壁(耐力壁といいます)や床(水平構面といいます)が少なくなりがちで、建物全体の剛性(変形しにくさ)が低下する可能性があります。
極端なセットバックやオーバーハング上の階にいくほど床面積が小さくなる(セットバック)、あるいは下の階より上の階が大きく張り出している(オーバーハング)形状が極端。力の流れが複雑になり、特定の階や部分に応力が集中しやすくなることがあります。

これらのポイントは、あくまで一般的な傾向であり、これらに当てはまるからといって、直ちに危険というわけではありません。しかし、不動産を調査する際や、お客様にご説明する際に、「こういった特徴がある建物なので、専門家による詳しい診断を受けてみると、より安心かもしれませんね」といった、建設的なアドバイスに繋げることができるでしょう。

これまでの「建築された年」という時間軸の視点に加えて、今回ご紹介した「構造材料」や「建物の形状」といった物理的な視点を持つことで、より多角的に建物の特徴を捉えることができます。次の章からは、これらのヒントを元に、日本で最も一般的な「木造建物」について、さらに具体的なチェックポイントを詳しく見ていくことにしましょう。

【鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリートのおうち編】ここをチェック。

前の章では、日本の住宅で多く見られる「木のおうち」の耐震性に関するチェックポイントを詳しく見てきました。今回は視点を変えて、マンションやオフィスビル、比較的大規模な建物で採用されることが多い「鉄筋コンクリート造(RC造)」や「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)」の建物について、どんな点に注意して見ていくべきか、そのポイントを探っていきましょう。

コンクリートや鉄骨でできた建物は、木造とはまた異なる特性を持っています。一見すると非常に頑丈そうに見えますが、やはり地震に対して注意しておきたい「弱点」となり得る部分があるのです。これらのポイントを理解しておくことは、特にマンションの売買仲介や管理業務に携わる方にとって、お客様への適切な情報提供やリスク把握に繋がります。

思考のプロセス。コンクリートの建物は本当に「強い」の。

鉄筋コンクリート造の建物は、その名の通り、鉄筋とコンクリートという二つの材料を組み合わせることで、それぞれの長所を活かした強い構造体を作っています。コンクリートは押される力(圧縮力)には非常に強いのですが、引っ張られる力(引張力)には弱いという性質があります。一方、鉄筋は引っ張られる力に強いのです。この二つを組み合わせることで、地震のような複雑な力にも耐えられるように設計されています。

しかし、材料が強いからといって、どんな建物でも絶対に安全というわけではありません。設計の仕方、施工の精度、そして経年による劣化など、様々な要因が耐震性に影響を与えます。特に、RC造やSRC造の建物は重量があるため、地震の際には非常に大きな力が建物に作用します。そのため、木造住宅とは異なる視点でのチェックが必要になるのです。

RC造・SRC造。耐震性チェックの重要ポイント。

それでは、鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の建物で特に注意したいチェックポイントを具体的に見ていきましょう。

チェックポイント1。基本中の基本。「建てられた年」はここでも重要。

1981年(昭和56年)の「新耐震基準」が大きな目安。

木造住宅と同様に、RC造・SRC造の建物においても、1981年6月1日以降の「新耐震基準」で設計・建築されているかどうかは、耐震性を判断する上での最初の、そして非常に重要なポイントです。この基準の前後で、地震に対する設計思想が大きく異なり、求められる耐力(建物が耐えられる力)も変わってきます。

RC造やSRC造の場合、木造住宅における2000年のような大きな基準改正は1981年以降ありませんが、設計技術や施工管理のレベルは年々向上しています。また、建築材料の品質も進化しています。しかし、基本的な耐震性能の考え方は、1981年の新耐震基準がベースとなっていることを覚えておきましょう。

チェックポイント2。建物の形、複雑ではありませんか(平面形状の不成形)。

重量がある分、不整形な形状は力の集中がよりシビアになることも。

これも木造住宅と共通するポイントですが、建物の平面形状(上から見た形)は、耐震性に大きく影響します。RC造・SRC造の建物は、木造に比べて自重が非常に大きいため、L字型、コの字型、あるいは極端に細長い形など、不整形な平面形状をしている場合、地震時に建物がねじれたり、特定の角の部分(入隅部いりすみぶ、出隅部ですみぶと言います)に力が集中し、ひび割れや損傷が生じやすくなる傾向があります。

例え話。硬い板チョコの割れ方。

板チョコを想像してみてください。四角いシンプルな形の板チョコと、星形のような複雑な形の板チョコ、どちらも硬いですが、手で割ろうとすると、星形のものは尖った部分や細くなった部分からパキッと割れやすいですよね。RC造の建物も、形が複雑だと、地震の力がかかった時に弱い部分が生じやすいのです。

大規模な建物では、意図的に複数のシンプルな形状の棟に分け、その間を「エキスパンションジョイント」という継ぎ目でつなぐことで、それぞれの棟が独立して揺れるように設計されていることもあります。このエキスパンションジョイントが適切に設けられ、機能しているかもポイントです。

チェックポイント3。壁や柱にひび割れや亀裂、コンクリートの劣化はありませんか。

ひび割れの種類と場所、コンクリートの状態で劣化度合いを推測。

コンクリートのひび割れ(クラックと言います)は、RC造の建物でよく見られる現象ですが、その全てが危険というわけではありません。しかし、中には構造的な問題を示唆する危険なひび割れもあります。

ひび割れの種類(一例)特徴と注意点
ヘアークラック髪の毛ほどの細いひび割れ(幅0.3mm程度以下)。乾燥収縮など、必ずしも構造的な欠陥ではないことが多いですが、多数発生している場合は注意。
構造クラック建物の構造的な問題(設計ミス、施工不良、過大な荷重など)や、地震の力によって発生するひび割れ。幅が広く、深く、特定のパターン(斜め45度方向のひび割れなど)で発生することが多い。特に要注意です。
貫通クラック壁などの部材を貫通しているひび割れ。雨水などが浸入しやすく、内部の鉄筋を錆びさせる原因になります。

ひび割れから茶色い錆汁(さびじる)が染み出している場合は、内部の鉄筋が錆びている証拠です。鉄筋が錆びると体積が膨張し、周囲のコンクリートを押し出して剥がれ落とす「爆裂(ばくれつ)」という現象を引き起こすことがあります。これは、建物の耐久性や耐震性を著しく低下させます。

また、コンクリートは年月とともに空気中の二酸化炭素の影響でアルカリ性から中性に変化していきます(中性化ちゅうせいかと言います)。コンクリートが中性化すると、内部の鉄筋を保護する能力が失われ、鉄筋が錆びやすくなります。外壁のタイルが浮いていたり、コンクリート片が落下したりしている場合は、劣化が進行しているサインかもしれません。

(関連。コンクリートの品質管理は、建築基準法やJIS規格(日本産業規格)で定められています。)

チェックポイント4。一階が柱だけでスカスカな感じ(ピロティ形式)。

特に旧耐震のピロティは、地震時の弱点になりやすい。

一階部分が駐車場や店舗、通路などになっていて、壁が少なく柱だけで上の階を支えている構造を「ピロティ形式」と言います。この形式は、特に1981年以前の旧耐震基準で建てられたRC造の建物において、地震時の大きな弱点となることが知られています。

阪神・淡路大震災では、このピロティ形式の建物の中間階(特に1階や2階)が押しつぶされるように崩壊する被害が多く見られました。上の階は壁が多くて固いのに対し、ピロティ階は柱だけで柔らかいため、地震の力がピロティ階の柱に集中し、耐えきれずに破壊されてしまうのです。

例え話。重たい荷物を細い竹馬で支える。

ピロティ形式の建物は、まるで重たい荷物を積んだ台車を、数本の細い竹馬で支えているようなものです。地面が揺れたら、竹馬の部分がグラグラして、持ちこたえられずに折れてしまうかもしれませんよね。

新耐震基準以降は、ピロティ部分の柱の設計を強化したり、耐震壁をバランス良く配置したりするなどの対策が取られるようになりましたが、それでもピロティ形式の建物を見る際には、柱の太さや壁の配置に注意を払う必要があります。

チェックポイント5。大きな吹き抜け、ありませんか。

床の連続性が損なわれ、建物全体の剛性が低下する可能性。

RC造やSRC造の建物でも、大きな吹き抜けはデザイン的な魅力がある一方で、構造的な注意点があります。吹き抜けがあると、その部分の床スラブ(鉄筋コンクリートの床版)がなくなるため、建物全体の水平方向の剛性(変形しにくさ)が低下し、地震時に建物がねじれやすくなる可能性があります。

特に、吹き抜けの周りに十分な耐震壁が配置されていない場合や、吹き抜けの形状が不規則な場合は、応力集中が起こりやすくなります。マンションのエントランスホールや、商業施設などで大きな吹き抜けがある場合は、その構造計画に注意が必要です。

チェックポイント6。耐震壁の配置、偏っていませんか。

RC造の耐震性の要、「耐震壁」のバランスが重要。

鉄筋コンクリート造の建物では、地震の水平力に抵抗する主要な部材として「耐震壁(たいしんへき)」が非常に重要な役割を果たします。耐震壁は、窓などの開口部が少なく、厚くて丈夫な鉄筋コンクリートの壁のことです。

この耐震壁が、建物の特定の方角や一部に偏って配置されていると、木造住宅と同様に「偏心(へんしん)」が生じ、地震時に建物がねじれるような揺れ方をします。その結果、特定の柱や耐震壁に過大な力が集中し、損傷の原因となることがあります。耐震壁が平面図上でバランス良く、かつ十分な量配置されているかどうかがポイントです。

チェックポイント7。建っている場所の地盤、大丈夫ですか(液状化のリスクなど)。

重量が大きいRC造・SRC造は、地盤の影響を受けやすい。

RC造やSRC造の建物は、木造に比べてはるかに重量が大きいため、建物を支える地盤の強度が非常に重要になります。特に、下記のような場所では注意が必要です。

注意が必要な地盤の例起こりうる現象
埋立地、旧河道(昔、川だった場所)、砂丘地など地震時に地盤が液体のようにドロドロになる「液状化現象」が発生しやすく、建物が傾いたり沈下したりする可能性があります。
軟弱地盤(粘土質や腐植土など)建物の重みで不均等に沈下する「不同沈下」を起こしやすく、建物にひび割れや傾きが生じることがあります。また、地震の揺れが増幅されやすい傾向があります。
傾斜地、崖の近く地震時に土砂崩れや地滑りの危険性があります。擁壁(ようへき、土砂崩れを防ぐ壁)の状態も確認が必要です。

開発許可の業務などでは、こうした土地の成り立ちや地盤調査の結果も重要な確認事項となりますね。

チェックポイント8。窓の下などにある、すごく短い柱に注意(短柱・極短柱のせん断破壊)。

地震の力が集中し、脆性的な破壊を起こしやすい危険な柱。

建物の壁の途中、例えば腰壁(こしかべ、窓の下の壁)と天井の間にできる短い柱や、梁(はり)と梁の間に挟まれた非常に短い柱のことを「短柱(たんちゅう)」または「極短柱(ごくたんちゅう)」と呼びます。これらの短い柱は、地震時に非常に大きなせん断力(部材をハサミで切るような力)を受けやすく、まるでポキっと折れるように破壊される「せん断破壊」という脆性的な壊れ方をしやすいことが知られています。

せん断破壊は、建物の崩壊に直結する非常に危険な破壊モードです。特に、1981年以前の旧耐震基準で建てられた学校の校舎や公共施設などで、この短柱の被害が多く報告されています。新耐震基準では、短柱にならないような設計上の配慮や、せん断破壊を防ぐための鉄筋(帯筋やフープ筋といいます)を密に配置するなどの対策が取られています。

例え話。鉛筆の折れ方。

同じ太さの長い鉛筆と短い鉛筆を用意して、両端を持って横から力を加えてみてください。短い鉛筆の方が、ほとんどしなることなく、急にパキッと折れてしまうのではないでしょうか。短柱もこれと似たようなイメージで、変形する能力が低く、大きな力が集中すると一気に破壊に至ることがあるのです。

RC造やSRC造の建物は、木造とは異なる視点でのチェックが必要ですが、これらのポイントを意識することで、建物の状態をより深く理解する手助けになります。しかし、これらの外観からのチェックだけでは判断が難しい部分も多くあります。特に古い建物や、気になる点が見つかった場合は、専門家による詳細な調査や耐震診断が不可欠です。

次の章では、こうした建物の「健康診断」とも言える「耐震診断」について、その重要性や進め方、相談先などを詳しく解説していきます。

「この建物、どうかな。」と思ったらプロに相談。「耐震診断」という選択肢。

これまでの章で、建物の「誕生日」である建築年や、使われている材料、そして建物の形や特徴から、地震に対する強さのヒントを探る方法を一緒に見てきました。木造のおうち、そして鉄筋コンクリート造りのおうち、それぞれに注目すべきポイントがありましたね。

しかし、これらのチェックポイントは、あくまで私たち自身でできる「初期の見極め」です。建物の本当の体力、つまり正確な耐震性能を知るためには、やはり専門家による詳細な調査が欠かせません。そこで登場するのが「耐震診断(たいしんしんだん)」です。今回は、この耐震診断について、その中身や進め方、そして私たち不動産に携わる者が知っておくべき大切なポイントを、詳しく解説していきます。

思考のプロセス。なぜ「耐震診断」が必要なの。

「見た目で気になる点がいくつかあったけど、それだけじゃダメなの。」「わざわざお金をかけてまで診断する必要があるの。」と思われるかもしれませんね。

確かに、外から見える情報や図面からもある程度の推測はできます。しかし、建物の耐震性は、目に見えない壁の中の鉄筋の量や配置、柱や梁の接合部の状態、コンクリートの強度、そして地盤の状況など、多くの複雑な要因が絡み合って決まります。これらを総合的に評価し、科学的な根拠に基づいて「本当に地震に耐えられるのか」を判断するためには、専門的な知識と技術、そして専用の計算が必要になるのです。

耐震診断は、いわば建物の「人間ドック」のようなもの。隅々まで検査して、隠れた問題点がないか、もし問題があるとしたらどの程度なのか、そしてどうすれば改善できるのかを明らかにするための、とても大切なプロセスなのです。

耐震診断とは、具体的にどんなことをするのでしょうか。

耐震診断は、建築士などの専門家が、既存の建物の設計図書や現地調査に基づいて、地震に対する安全性を評価するものです。その評価結果によって、補強工事が必要かどうか、必要であればどのような工事が適切かなどを判断します。

特に、1981年(昭和56年)5月31日以前の旧耐震基準で建てられた建物や、これまでの章で見てきたような注意すべき特徴を持つ建物については、耐震診断を受けることが強く推奨されます。なお、多数の人が利用する大規模な建物など、特定の用途・規模の建物については、「耐震改修促進法(正式名称。建築物の耐震改修の促進に関する法律)」に基づき、耐震診断とその結果の報告が義務付けられている場合もありますが、個人の住宅の場合は努力義務とされていることが多いです。(根拠法令。耐震改修促進法 平成7年法律第123号)

耐震診断の主な流れと種類。

耐震診断には、建物の種類や状態、どこまで詳しく調べるかによって、いくつかの段階や方法があります。

耐震診断の一般的なステップ。
ステップ主な内容例えるなら(人間ドックの場合)
1. 予備調査(現地調査・図面確認)建物の概要(建築年、構造、規模など)の確認、設計図書(建築確認申請書、図面など)の有無と内容確認、増改築の履歴調査、建物の内外の劣化状況(ひび割れ、傾き、雨漏りなど)の目視調査などを行います。問診、既往歴の確認、身長・体重測定など。
2. 一次診断(簡易診断法)主に木造住宅を対象に、壁の量や配置、劣化度などを点数化し、比較的簡単な計算で大まかな耐震性能を評価します。「誰でもできるわが家の耐震診断(一般財団法人日本建築防災協会監修)」などもこの考え方に基づいています。簡単な体力測定やアンケート形式の健康チェック。
3. 二次診断(精密診断法)柱や壁の断面積、鉄筋の量、コンクリートの強度など、より詳細なデータに基づいて、建物が保有する耐力(保有水平耐力など)を計算し、必要な耐力(必要保有水平耐力など)と比較して、精密に耐震性能を評価します。鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物、木造でも複雑な形状の建物などで行われます。血液検査、レントゲン検査、心電図など、より詳しい検査。
4. 三次診断(さらに高度な診断法)時刻歴応答解析(じこくれきおうとうかいせき)など、コンピューターを用いた非常に高度なシミュレーション計算を行い、大地震時の建物の揺れ方や変形の様子、各部材の損傷度合いなどを詳細に予測・評価します。超高層ビルや特殊な構造の建物など、限定的なケースで行われます。MRIやCTスキャン、専門医による精密検査など。

一般的な戸建て住宅やマンションでは、主に一次診断や二次診断が行われます。どのレベルの診断が必要かは、建物の状況や専門家の判断によります。

どこに相談すればいいの。信頼できる窓口と専門家。

「耐震診断を受けたいけれど、どこに頼めばいいのか分からない」という方も多いでしょう。信頼できる相談先を知っておくことは、適切な診断を受けるための第一歩です。

公的な相談窓口を活用しましょう。

まずは、お住まいの地域にある公的な相談窓口を訪ねてみるのが良いでしょう。

相談窓口の例期待できること
都道府県や市区町村の担当部署
(建築指導課、都市計画課、耐震化推進室など)
中立的な立場からのアドバイス、耐震診断・改修に関する助成金制度の案内、登録されている耐震診断資格者や専門業者のリスト提供など。熊本県や菊陽町にも関連窓口があるはずですので、問い合わせてみましょう。

専門機関も頼りになります。

建築に関する専門機関も、耐震診断に関する情報提供や専門家の紹介を行っています。

専門機関の例期待できること
一般財団法人 日本建築防災協会耐震診断・改修に関する技術的な情報提供、講習会の開催、相談窓口の設置など。
一般社団法人 日本建築構造技術者協会(JSCA)建築構造の専門家集団。耐震診断・改修に関する相談や、構造設計の専門家を紹介。
都道府県の建築士会、建築士事務所協会地域に根差した建築士や建築士事務所の情報提供、相談会などを実施している場合があります。

民間の設計事務所やリフォーム会社に直接相談するケース。

耐震診断の実績が豊富な設計事務所や、耐震改修工事を専門とするリフォーム会社に直接相談することも可能です。診断から改修工事まで一貫して対応してくれる場合もありますが、業者選びは慎重に行う必要があります。

失敗しない。耐震診断業者の選び方のポイント。

耐震診断は専門的な知識と技術が必要なため、信頼できる業者を選ぶことが非常に重要です。中には、不必要な工事を勧めたり、高額な費用を請求したりする悪質な業者がいないとも限りません。

お医者さん選びに似ています。

大切な体の健康診断を任せるお医者さんを選ぶ時、皆さんはどうしますか。きっと、資格を持っているか、経験が豊富か、説明が丁寧か、信頼できるか、などを重視するのではないでしょうか。耐震診断の業者選びも、これと全く同じです。

業者選び。ここをチェックしましょう。
チェックポイント確認する内容
資格・登録建築士(一級、二級、木造)の資格はもちろん、都道府県などが認定する「耐震診断資格者」や「耐震改修技術者」などの専門資格を持っているか確認しましょう。事務所が建築士事務所として登録されているかも重要です。
実績・経験依頼しようとしている建物と同様の構造・規模の建物の耐震診断実績が豊富か、過去の事例などを確認しましょう。
説明の丁寧さ・分かりやすさ診断方法、診断結果、そしてもし補強が必要な場合の計画や費用について、専門用語ばかりでなく、素人にも分かりやすく丁寧に説明してくれるか。質問に対して的確に答えてくれるか。
見積もりの透明性診断費用の内訳(現地調査費、図面作成費、計算費、報告書作成費など)が明確に示されているか。不必要なオプションが含まれていないか。複数の業者から見積もりを取って比較することも有効です。
契約内容の確認業務の範囲、期間、費用総額、支払い条件、キャンセル時の規定などを、必ず書面(契約書)で確認しましょう。口約束はトラブルのもとです。
過度な不安を煽らないか診断結果を大げさに伝えたり、不必要に高額な改修工事をすぐに契約させようとしたりする業者には注意が必要です。

気になる費用と、心強い助成金制度。

耐震診断には費用がかかりますが、その後の安心や安全を考えると、必要な投資と言えるかもしれません。また、費用負担を軽減するための助成制度もあります。

耐震診断の費用はどのくらい。

耐震診断の費用は、建物の種類(木造、RC造など)、規模(延床面積)、築年数、図面の有無、そしてどのレベルの診断(一次、二次など)を行うかによって大きく異なります。

建物の種類・診断レベル費用目安(一般的なケース)
木造住宅(戸建て)の一次診断(簡易診断)数万円から15万円程度。図面の有無や劣化状況により変動します。
木造住宅(戸建て)の二次診断(精密診断)20万円から40万円程度。詳細な調査や計算が必要になります。
マンションなどRC造の二次診断規模や構造によりますが、数十万円から、場合によっては数百万円かかることもあります。(マンション一棟全体の場合)

これはあくまで目安であり、個別の状況によって費用は変動しますので、必ず事前に複数の業者から見積もりを取りましょう。

活用したい。自治体の助成金・補助金制度。

多くの都道府県や市区町村では、耐震化を促進するために、耐震診断やその後の耐震改修工事にかかる費用の一部を助成・補助する制度を設けています。これは「耐震改修促進法」に基づき、国や自治体が積極的に支援しているものです。

熊本県や菊陽町でも、同様の制度がある可能性があります。対象となる建物の条件(建築年、用途、規模など)や、助成額、申請手続きなどは自治体によって異なりますので、まずは役所の担当窓口やホームページで情報を確認してみましょう。私たち不動産業者も、お客様にこうした有益な情報を提供することで、より信頼される存在になれますね。

(関連。耐震改修促進計画を策定している自治体では、計画に沿った助成制度が設けられていることが多いです。)

耐震診断を受けるメリット。何が得られるのでしょうか。

費用や手間をかけて耐震診断を受けることには、たくさんのメリットがあります。

耐震診断の主なメリット。
  • 我が家の「本当の体力」が客観的に分かる。
    漠然とした地震への不安が、具体的なデータに基づいて「どの程度の地震まで耐えられそうか」という形で見えるようになります。
  • もし弱点があっても、適切な対策が立てられる。
    耐震性が不足していると分かった場合でも、どこを、どのように、どの程度の費用をかけて補強すれば安全性が向上するのか、専門家からの具体的なアドバイスが得られます。
  • 将来の安心な暮らしに繋がる。
    適切な耐震対策を施すことで、万が一の地震発生時にも、家族の命や財産を守れる可能性が高まります。
  • 不動産としての価値を維持、向上させる可能性も。
    耐震性が確保されている、あるいは適切に補強されている建物は、中古物件として売買する際にも、買主にとって安心材料となり、評価されることがあります。
  • 何よりも、精神的な「安心感」が得られる。
    「我が家は大丈夫だろうか」という不安を抱えながら暮らすよりも、専門家の目でしっかりと安全性を確認することで、日々の暮らしに大きな安心感が生まれます。

耐震診断は、建物の安全性を確認し、安心して暮らすための第一歩です。そして、もし耐震性が不足していると分かったとしても、それは終わりではなく、適切な対策を講じるためのスタートラインに立ったということなのです。

さて、建物の「健康状態」が分かったら、次はどんな「治療法」や「体力アップの方法」があるのでしょうか。次の章では、建物を地震から守るための代表的な3つの構造、「耐震」「制震」「免震」について、それぞれの特徴や違いを詳しく見ていくことにしましょう。

地震対策のスーパーヒーローたち。「耐震・制震・免震」って何が違うの。

前の章では、建物の「健康診断」とも言える「耐震診断」について、その重要性や進め方、そして専門家への相談方法などを見てきました。耐震診断によって、今ある建物の地震に対する強さが客観的に分かったり、あるいはこれから新しい建物を計画する上で、どんな点に配慮すべきかが見えてきたりしますね。

では、実際に建物を地震の揺れから守るためには、どのような技術や考え方があるのでしょうか。実は、建物の地震対策には、それぞれ得意技を持つ、まるでスーパーヒーローのような3つの主要な構造技術があります。それが「耐震(たいしん)構造」「制震(せいしん)構造」「免震(めんしん)構造」です。今回は、これらの「三銃士」とも言える構造たちが、それぞれどんな仕組みで、どんな特徴を持っているのか、分かりやすく解説していきます。この違いを知っておくことは、お客様に物件の安全性を説明する際や、新しい建物の計画を理解する上で、とても役立ちますよ。

思考のプロセス。なぜ色々な地震対策があるの。

地震の揺れから建物を守ると一口に言っても、そのアプローチは一つではありません。建物の大きさ、形、使われ方、そしてかけられるコストなど、様々な条件によって最適な対策は変わってきます。また、目指す安全性のレベル、例えば「とにかく建物が壊れないようにする」のか、「建物の中の揺れもできるだけ小さくして、家具の転倒なども防ぎたい」のかによっても、選ぶべき技術が異なります。

これからご紹介する「耐震」「制震」「免震」は、それぞれ異なる発想で地震の力に対応しようとするものです。それぞれのヒーローがどんな個性と得意技を持っているのか、じっくり見ていきましょう。

地震対策の三銃士。それぞれの得意技と特徴。

まずは、それぞれの構造の基本的な考え方と、地震の揺れに対してどのように振る舞うのかを見ていきましょう。

耐震構造(たいしんこうぞう)。力でガッチリ対抗する、マッチョなヒーロー。

仕組みと揺れ方

耐震構造は、建物の柱や梁(はり)、壁などの構造体そのものを強く、そして硬く作ることで、地震の力に正面から「耐え抜こう」とする考え方です。まるで、お相撲さんが相手の力をしっかりと受け止めて踏ん張るようなイメージですね。建物全体が一体となって、地震のエネルギーに抵抗します。

この構造の場合、地震の揺れは基礎から建物へと直接伝わります。そのため、建物は地面と一緒に揺れることになります。特に高層の建物では、上の階にいくほど揺れが大きくなる傾向があります。建築基準法が基本的に求めているのは、この耐震構造によって、大きな地震(震度6強から7程度)でも建物が倒壊・崩壊せず、人命を守ることです。

例え話。頑丈な箱。

耐震構造の建物は、とても頑丈に作られた箱のようなものです。外から強い力で揺らされても、箱自体は簡単には壊れません。しかし、中の物は箱と一緒に揺さぶられることになります。

メリット
  • 他の構造に比べて、一般的に建築コストを抑えやすいです。
  • 設計の自由度が高く、様々なデザインの建物に対応しやすいです。
  • 古くから実績のある基本的な構造で、多くの建物で採用されています。
デメリット
  • 大地震の際には建物自体が大きく揺れるため、建物内部の家具が転倒したり、物が散乱したりする可能性が高くなります。
  • 建物が揺れを直接受けるため、構造体にダメージが蓄積しやすく、繰り返しの地震に対しては性能が低下していく可能性があります。
  • 上層階ほど揺れが増幅されるため、高層の建物では特に内部の被害や居住者の不安が大きくなることがあります。
コスト感

比較的低い。三つの構造の中では最も経済的です。

どんな建物に多いか

一般的な戸建て住宅、低層から中層のマンションやアパート、小規模なオフィスビルなど、多くの建物で採用されています。

制震構造(せいしんこうぞう)。揺れのエネルギーを吸収する、しなやかなヒーロー。

仕組みと揺れ方

制震構造は、建物の内部に「制震装置」と呼ばれる特殊な装置(オイルダンパー、鋼材ダンパー、粘弾性ダンパーなどがあります)を組み込むことで、地震の揺れのエネルギーを吸収し、熱エネルギーなどに変換して放出する仕組みです。これにより、建物の揺れそのものを小さく抑えようとします。柳の木が強い風の力をしなやかに受け流して、ポキっと折れるのを防ぐのに少し似ていますね。

制震装置が地震のエネルギーを「食べてくれる」ようなイメージで、耐震構造の建物に比べて揺れが軽減されます。特に、高層ビルで問題となる長周期地震動(ゆっくりとした大きな揺れ)や、風による揺れに対しても効果を発揮します。

例え話。衝撃吸収材入りのグローブ。

ボクサーがパンチを受ける時、分厚い衝撃吸収材が入ったグローブで受けると、直接顔で受けるよりも衝撃が和らぎますよね。制震装置は、この衝撃吸収材のような役割を果たし、建物へのダメージを軽減します。

メリット
  • 建物の揺れを耐震構造よりも小さくできるため、柱や梁などの構造体へのダメージを軽減できます。
  • 建物内部の家具の転倒リスクや、配管などの設備の損傷リスクも低減されます。
  • 繰り返しの地震に対しても、制震装置がエネルギーを吸収し続けるため、耐震性能の低下を抑える効果が期待できます。
  • 既存の建物に対して、耐震補強の一環として制震装置を設置する改修も比較的行いやすい場合があります。
デメリット
  • 耐震構造のみの場合に比べて、制震装置の設置コストがかかります。
  • 制震装置の種類や配置場所によって、効果の現れ方が異なります。適切な設計が重要です。
  • 免震構造ほどには揺れを劇的に小さくするわけではありません。
コスト感

中程度。耐震構造よりは高くなりますが、免震構造よりは抑えられる傾向があります。

どんな建物に多いか

高層マンション(タワーマンション)、高層オフィスビル、病院、データセンターなど、機能維持や居住性が重視される建物で採用が増えています。

免震構造(めんしんこうぞう)。揺れを建物に”伝えない”、達人技のヒーロー。

仕組みと揺れ方

免震構造は、建物の最も下、基礎の部分と建物の本体との間に「免震装置」と呼ばれる特殊な装置(積層ゴム支承、すべり支承、ダンパーなどを組み合わせたもの)を設置するものです。この免震装置が、地震の揺れを吸収したり、受け流したりすることで、地面の激しい揺れを建物本体に直接伝えないようにします。「免」という字が示す通り、「揺れを免れる」という発想です。

地面が揺れても、免震装置がその揺れを巧みにいなし、建物本体はゆっくりと水平方向に移動するような、船が波に漂うような揺れ方になります。そのため、建物内部の揺れは大幅に軽減され、家具の転倒や物の落下といった被害を最小限に抑えることができます。

例え話。テーブルクロス引きの名人芸。

宴会芸などで見るテーブルクロス引きを想像してください。テーブルの上の食器(建物)は、テーブルクロス(地面)が素早く引かれても、ほとんど動かずにその場に留まりますよね。免震構造は、これと似た原理で、地面の動きを建物に伝えにくくするのです。

メリット
  • 三つの構造の中で、最も建物内部の揺れを小さくできます。
  • 地震発生時の建物本体の損傷を最小限に抑えられるため、地震後も建物の機能を維持しやすく、継続して使用できる可能性が高いです。
  • 内部の家具や設備の被害が非常に少ないため、人命の安全確保はもちろん、生活再建や事業継続の点でも有利です。
デメリット
  • 一般的に、三つの構造の中で最も建築コストが高くなります。免震装置自体が高価であることや、設置のための特別なスペース(免震層)が必要になるためです。
  • 免震装置の性能を十分に発揮させるためには、ある程度しっかりとした地盤が必要です。非常に軟弱な地盤や、液状化の可能性が極めて高い場所、あるいは津波の浸水が想定される場所などでは、適用が難しかったり、特別な対策が必要になったりする場合があります。
  • 免震装置は、定期的な点検やメンテナンスが必要になります。
  • 建物がゆっくり大きく水平移動するため、建物の周囲にはその動きを妨げないための十分なクリアランス(隙間)が必要です。
コスト感

高い。特別な装置と施工が必要なため、コストは最も高くなる傾向があります。

どんな建物に多いか

超高層マンション、重要なデータを扱うデータセンター、手術室などを持つ基幹病院、文化財を収蔵する美術館や博物館など、地震後も機能を維持することが極めて重要な建物や、内部の安全性が特に求められる建物で採用されています。

三者三様。どの構造が一番良いのでしょうか。

ここまで「耐震」「制震」「免震」という3つの構造を見てきましたが、「じゃあ、結局どれが一番優れているの。」という疑問が湧いてくるかもしれませんね。しかし、これは一概に「これが一番。」と言えるものではありません。

それぞれの構造には、得意なことと苦手なこと、そしてコストや適用できる条件に違いがあります。建物を建てる目的、場所、規模、そしてかけられる予算などを総合的に考えて、最もふさわしい構造を選ぶことが大切です。例えば、絶対に機能を止められない病院の手術室と、一般的な個人の住宅では、求められる安全性のレベルや許容できるコストが異なりますよね。

構造選びのポイントは「バランス」。
視点考えること
安全性どの程度の地震の揺れまで、建物や内部の安全を確保したいか。人命保護が最優先か、財産保護や機能維持まで求めるか。
コスト初期建設コスト(イニシャルコスト)はどの程度か。また、将来の維持管理コスト(ランニングコスト)はどうか。
建物の用途・規模戸建て住宅か、マンションか、オフィスビルか。低層か、高層か。
立地条件地盤の強さはどうか。周囲の環境はどうか。
居住性・事業継続性地震時の揺れによる不快感をどの程度許容できるか。地震後すぐに生活や事業を再開したいか。

これらの要素を総合的に検討し、専門家(構造設計者など)とよく相談しながら、最適な地震対策を選ぶことが重要です。(関連法規。建築基準法では、すべての建物に対して最低限の耐震性能を確保することを求めています。制震や免震は、その基準を上回る性能を付加する技術と位置づけられます。)

このように、建物を地震から守るための構造技術には、様々なアプローチがあることをご理解いただけたでしょうか。これらの技術は、日本の建築家や技術者たちが、過去の多くの地震の教訓を活かし、より安全な建物を目指して研究開発を重ねてきた成果でもあります。

では、こうした地震対策技術の基礎となる日本の「耐震」に関するルール、つまり耐震基準は、これまでどのように進化してきたのでしょうか。次の章では、その歴史的な歩みを一緒に振り返ってみたいと思います。

ちょっと豆知識。日本の耐震ルールはどう変わってきたの。

前の章では、建物を地震から守るための「耐震」「制震」「免震」という3つのスーパーヒーローたちについて、それぞれの得意技や特徴を見てきました。これらの技術は、より安全な建物を目指す中で生まれてきたものですが、その大前提となるのが、国が定める「耐震基準」というルールです。

私たち不動産に携わる者が、建物の安全性を考える上で欠かせないこの耐震基準。実は、一朝一夕に出来上がったものではありません。日本が経験してきた数々の大きな地震の教訓をバネにして、まるで成長する生き物のように、何度も何度も見直され、強化されてきた歴史があるのです。今回は、この日本の耐震ルールが、どのような道のりを辿って今の形になったのか、その「進化の物語」を一緒に見ていきましょう。この歴史を知ることは、私たちが扱う建物の「生まれた時代背景」を理解し、お客様への説明に深みを持たせる上で、きっと役立つはずです。

思考のプロセス。なぜルールは変わり続けるの。

「一度決めたルールを、なぜ何度も変える必要があるの。」と不思議に思うかもしれませんね。それは、地震という自然現象が、私たちの予想を超える力で襲ってくることがあるからです。そして、実際に大きな地震が起こるたびに、これまでのルールでは防ぎきれなかった被害や、新たに見つかった建物の弱点が出てきます。

法律や基準を作る人々は、そのたびに「どうすればもっと安全な建物ができるだろうか」「次に同じような地震が来ても、被害を最小限に抑えるためにはどうしたら良いだろうか」と真剣に考え、議論を重ねます。そして、科学的な知見や技術の進歩も取り入れながら、ルールをより良いものへとアップデートしていくのです。日本の耐震基準の歴史は、まさにこの「学びと改善の繰り返し」の歴史そのものと言えるでしょう。

地震と共に歩んだ、日本の耐震基準の変遷。

それでは、日本の耐震基準がどのように進化してきたのか、主な出来事を時系列で追ってみましょう。

【夜明け前】耐震設計という考え方がなかった時代(~1923年 関東大震災以前)

日本の古いお寺や五重塔などが、幾度もの地震にも耐えて現存しているのを見ると、昔の人も地震に強い建物を建てる工夫をしていたことが分かります。例えば、柱と梁を柔軟に組むことで揺れを吸収する「柔構造(じゅうこうぞう)」に近い考え方は、日本の伝統的な木造建築の中に見られます。しかし、これらは経験則に基づくもので、現在の私たちが使っているような科学的な計算に基づいた「耐震設計」という概念は、まだ確立されていませんでした。

【第一歩】1920年 市街地建築物法と1924年 改正(関東大震災の教訓)

日本の耐震規定、ここに始まる。

日本で初めて、建築法規の中に地震に対する考慮が盛り込まれたのが、1920年(大正9年)に施行された「市街地建築物法」です。そして、その規定が大きく見直されるきっかけとなったのが、1923年(大正12年)に発生した「関東大震災」でした。

この地震では、東京や横浜を中心に甚大な被害が発生し、特にレンガ造や石造といった、当時の西洋風の建物が多く倒壊しました。この教訓から、1924年(大正13年)の市街地建築物法改正で、世界でも先駆的と言われる本格的な耐震規定が導入されました。

主なポイント内容
水平震度の導入地震による横揺れの力を考慮するため、「水平震度0.1以上」で建物を設計するという考え方が取り入れられました。これは、建物の重さの10分の1の水平力が作用しても安全であるように設計するという意味です。
構造計算の義務化一定規模以上の建物に対して、構造計算(建物が地震や自重などの力に対して安全かどうかを計算で確かめること)を行うことが義務付けられました。
例え話。初めての「横綱」対策。

それまでのお相撲さんは、主に「自分の重さを支える」ことだけを考えて稽古していました。しかし、関東大震災という強力な横綱と対戦して手痛い敗北を喫したため、「これからは横からの押しにも耐えられるように、特別な稽古(構造計算)をしよう。そして、少なくとも自分の体重の1割くらいの力で押されても倒れないようにしよう(水平震度0.1)」という新しいルールができた、というイメージです。

(根拠法令。市街地建築物法(大正8年法律第37号))

【基盤づくり】1950年 建築基準法の制定

戦後の復興と共に、全国統一の建築ルールが誕生。

第二次世界大戦後、日本は焼け野原からの復興を目指し、多くの建物を建設する必要に迫られました。こうした中、1950年(昭和25年)に、それまでの市街地建築物法などに代わる、全国統一の建築に関する基本法として「建築基準法」が制定されました。

この建築基準法にも、地震に対する規定は引き継がれましたが、その内容はまだ関東大震災の経験に基づいたものが中心で、設計震度は水平震度0.2と、多少強化されたものの、基本的な考え方は大きく変わっていませんでした。しかし、この法律が現在の建築法規の直接的な土台となっている点で、非常に重要な一歩です。

(根拠法令。建築基準法(昭和25年法律第201号))

【RC造への警鐘】1968年 十勝沖地震と1971年 建築基準法改正

鉄筋コンクリート造の柱の弱点が明らかに。

1968年(昭和43年)に発生した「十勝沖地震」では、鉄筋コンクリート造(RC造)の学校の校舎などに、柱が途中でせん断破壊(斜めに切れるように壊れること)を起こす被害が多数報告されました。これは、柱の主筋(縦方向の主要な鉄筋)を束ねている帯筋(おびきん、フープとも言います)の間隔が広すぎたために、柱が地震の力に対して粘り強さを発揮できなかったことが原因の一つと考えられました。

この教訓を受けて、1971年(昭和46年)に建築基準法施行令が改正され、RC造の柱の帯筋の間隔をより密にするなど、柱のせん断耐力(せん断力に耐える力)と靭性(じんせい、粘り強さ)を高めるための規定が強化されました。

例え話。柱の「腹巻き」強化。

RC造の柱を人間に例えるなら、主筋が背骨、帯筋が腹巻きのようなものです。十勝沖地震では、この腹巻きの巻き方が少し緩かったために、強い力がかかった時に背骨がグキッとなってしまったのです。そこで、1971年の改正では、「もっと腹巻きをきつく、細かく巻いて、背骨をしっかりガードしよう」というルールに変わったのです。

【大転換期】1978年 宮城県沖地震と1981年 建築基準法大改正(「新耐震基準」の導入)

現在の耐震設計の基礎、「新耐震基準」が誕生。

そして、日本の耐震基準の歴史において、最も大きなターニングポイントとなったのが、1981年(昭和56年)6月1日施行の建築基準法大改正、いわゆる「新耐震基準」の導入です。このブログでも何度も登場している、あの重要な年ですね。

この大改正の直接的な引き金となったのは、1978年(昭和53年)に発生した「宮城県沖地震」です。この地震では、仙台市を中心に大きな被害が出ましたが、特に比較的新しいはずの建物や、壁の少ないラーメン構造(柱と梁で骨組みを作る構造)の建物にも被害が目立ちました。これにより、「現行の耐震基準では、大地震に対して人命を守るという点で不十分ではないか」という危機感が強まり、耐震設計の考え方を根本から見直す動きへと繋がったのです。

新耐震基準の主なポイントは以下の通りです。

設計段階目標とする性能
一次設計(許容応力度計算)建物が数十年に一度程度発生する可能性のある中規模の地震(震度5強程度)に対して、ほとんど損傷しないこと。建物は無傷に近い状態を保ち、地震後も継続して使用できることを目指します。
二次設計(保有水平耐力計算など)建物が数百年に一度程度発生する可能性のある大規模な地震(震度6強から7程度)に対して、倒壊・崩壊しないこと。建物に損傷は受けても、中にいる人の命が守られることを最優先とします。

この二段階の設計クライテリア(設計目標)を導入したことで、単に「壊れない」だけでなく、「どの程度の地震で、どの程度の状態を保つのか」という、より具体的で明確な目標設定がなされるようになりました。木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造といった主要な構造種別すべてにおいて、耐震性能が大幅に向上しました。

【教訓と課題】1995年 阪神・淡路大震災とその後の動き

新耐震基準の有効性と、既存建物の耐震化の重要性が浮き彫りに。

1995年(平成7年)1月17日に発生した「阪神・淡路大震災」は、大都市直下型地震の恐ろしさをまざまざと見せつけました。この地震では、特に旧耐震基準で建てられた木造住宅や、ピロティ形式のRC造建物、古い鉄骨造の建物などに甚大な被害が集中しました。一方で、新耐震基準(1981年以降)で建てられた建物の被害は比較的軽微であったことから、新耐震基準の有効性がある程度確認されました。

しかし、課題も多く残りました。この震災を契機として、以下のような動きが進みました。

  • 2000年(平成12年)建築基準法改正(主に木造住宅関連の強化)
    阪神・淡路大震災では、新耐震基準の木造住宅でも一部に被害が見られたことなどから、木造住宅の耐震性能をさらに向上させるための改正が行われました。具体的には、地盤調査に基づいた基礎設計の明確化、耐力壁の配置バランス(偏心率)のより厳しい規定、柱の柱頭柱脚(ちゅうとうちゅうきゃく、柱の上下の端)の接合方法の仕様規定化などが盛り込まれました。
  • 1995年(平成7年)「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」の制定
    この法律は、旧耐震基準で建てられた既存の建物(いわゆる既存不適格建築物)の耐震診断や耐震改修を促進し、地震による被害を軽減することを目的としています。この法律に基づいて、国や地方公共団体が耐震化のための計画を策定したり、助成制度を設けたりしています。

(根拠法令。耐震改修促進法(平成7年法律第123号)、2000年改正関連の建築基準法施行令および建設省告示(当時)など。)

【新たな課題へ】東日本大震災、熊本地震、そして未来へ。

地震は常に新しい課題を突きつける。基準の進化に終わりはない。

2011年(平成23年)の「東日本大震災」では、巨大な津波による壊滅的な被害に加え、長周期地震動(ゆっくりとした大きな揺れ)による高層ビルの大きな揺れや、天井などの非構造部材の落下といった新たな課題が浮き彫りになりました。また、2016年(平成28年)の「熊本地震」では、震度7の揺れが2度も観測されるという、これまでにない経験をしました。この地震では、新耐震基準で建てられた木造住宅でも、特に2000年の基準改正以前のものに倒壊・大破の被害が集中する事例も見られ、繰り返す大きな揺れに対する耐震性の重要性が再認識されました。

これらの経験を踏まえ、長周期地震動対策の研究、天井などの非構造部材の耐震設計基準の強化、より質の高い施工を確保するための検査体制の見直し、そして何よりも既存建築物の耐震化の一層の推進など、日本の地震対策は今もなお進化を続けています。例えば、熊本地震後には、建築基準法そのものではありませんが、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)に基づく住宅性能表示制度において、繰り返す地震に対する評価の考え方などが議論されています。

このように、日本の耐震基準は、大きな地震が起こるたびに、その教訓を真摯に受け止め、より安全な社会を目指して改正を繰り返してきた「知恵と努力の結晶」と言うことができます。私たちが日々目にし、また取り扱う建物が、どのような歴史的背景のもとに建てられているのかを知ることは、不動産の専門家として非常に大切な視点です。

さて、ここまで日本の建物の耐震性について、様々な角度から見てきました。最後の章では、これまでの内容を総括し、私たち不動産のプロフェッショナルとして、お客様の安全・安心な住まい選びや資産形成にどのように貢献できるのか、その役割と心構えについて考えてみたいと思います。

まとめ。今日のポイントを押さえて、お客様の安心と安全な未来へつなげよう。

これまでの学び。おさらいダイジェスト。

まずは、この長い旅路で触れてきた大切なポイントを、キーワードで振り返ってみましょう。

耐震知識のキーポイント一覧。
テーマ主なキーワード・考え方
基本の見分け方建築年(特に1981年、2000年)、構造材料(木造、RC造など)、建物の形状(シンプルか複雑か)、壁の配置バランス。
木造建物の注意点直下率、壁量、偏心率、屋根の重さ、基礎の種類、接合部の金物。
RC造・SRC造建物の注意点ひび割れ・劣化、ピロティ、耐震壁の配置、短柱、液状化リスク。
専門家によるチェック耐震診断の必要性、プロセス(一次・二次診断など)、相談先(公的窓口、専門機関)、信頼できる業者の選び方、費用と助成金。
地震対策技術耐震構造(力で耐える)、制震構造(揺れを吸収)、免震構造(揺れを伝えない)。それぞれの仕組み、メリット・デメリット、コスト。
日本の耐震基準の歴史関東大震災、市街地建築物法、建築基準法制定、十勝沖地震、宮城県沖地震、新耐震基準(1981年)、阪神・淡路大震災、2000年改正、耐震改修促進法、近年の大地震の教訓。

不動産のお仕事で、この知識をどう活かすか。

これらの知識は、日々の不動産業務の様々な場面で役立ちます。特に、開発許可の申請などを担当されている皆さんにとっては、土地の安全性や、そこに建てられる建物の基本的な考え方を理解する上で、重要な素養となるでしょう。

お客様への的確な情報提供と信頼関係の構築

シーン1。中古物件のご案内

お客様に物件の建築年や構造をお伝えする際、「この建物は〇〇年に建築確認を受けていますので、新耐震基準で設計されていますね。」「間取りを見ると、壁の配置に偏りも少なく、比較的バランスが良いようです。ただ、より詳しくお知りになりたければ、耐震診断という方法もありますよ。」など、学んだ知識を交えて説明することで、お客様の安心感と納得感を高めることができます。

シーン2。新築のご相談や土地の紹介

「この土地は元々田んぼだった場所を造成しているので、新しいお家を建てる際には、しっかりとした地盤調査と、その結果に基づいた基礎設計が大切ですね。」「地震対策には、建物を頑丈にする耐震構造だけでなく、揺れを抑える制震構造や、揺れを伝えにくくする免震構造といった選択肢もありますよ。」と、幅広い視点からのアドバイスが可能になります。(宅地建物取引業法では、造成宅地防災区域内にある場合などは、その旨を重要事項として説明する義務がありますね。)

物件調査・評価の精度向上

ポイント1。書類から読み解く

登記簿謄本や建築確認済証、検査済証などの書類から、建築年月日や構造種別を正確に把握する。これは耐震性を考える上での基本中の基本です。

ポイント2。現地での観察眼を養う

建物の外観や内部を観察する際に、ひび割れの状況、建物の傾き、不自然な増改築の跡など、これまでの章で学んだ「危険な兆候」に気づくアンテナを高くしましょう。もちろん、最終的な判断は専門家に委ねるべきですが、「気づく力」は重要です。

開発許可申請業務との関連性

視点1。土地の安全性の確認

開発許可を申請する土地が、切土や盛土を伴う造成地である場合、その安全性は非常に重要です。擁壁(ようへき)の構造や状態、排水計画なども、土地全体の安定性、ひいてはそこに建つ建物の安全性に関わってきます。

視点2。新しいまちづくりと建物の安全性

新しい宅地開発においては、それぞれの区画にどのような建物が建てられるのか、その建物が地域全体の防災性や景観にどう影響するのか、といった広い視野も求められることがあります。耐震性の高い建物が立ち並ぶまちは、それ自体が災害に強い安全なコミュニティの基盤となります。

視点3。既存ストックの活用と耐震化

都市計画においては、既存の建物を有効活用することも重要です。もし、開発区域内に古い建物が存在する場合、それを解体するのか、あるいは耐震改修を施して再生・活用するのか、といった判断が求められるケースも出てくるかもしれません。そのような場合に、耐震診断や耐震改修の知識が役立ちます。

プロフェッショナルとして、学び続けることの大切さ。

建物の安全性に関する法律や技術は、新たな地震の教訓や研究成果を受けて、常に進化し続けています。今日学んだ知識が、数年後には古い情報になっている可能性もゼロではありません。

だからこそ、私たち不動産に携わる者は、常に新しい情報にアンテナを張り、学び続ける姿勢が大切です。分からないことがあれば、建築士や構造設計の専門家といった、他の分野のプロフェッショナルと積極的に連携し、教えを請う謙虚さも必要でしょう。「tiou.jp」のような情報サイトも、皆さんの知識のアップデートに役立つはずです。

お客様の大切な命と財産を守る住まいに関わる者として、そして、安全で安心な地域社会の実現に貢献する専門家として、確かな知識と誠実な対応を心がけていきましょう。その一つ一つの積み重ねが、お客様からの「あなたに任せて良かった」という最高の言葉に繋がるのだと信じています。

この長い記事を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。皆さんのこれからのご活躍を心から応援しています。

NOTE

業務ノート

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